

R.E.M.の1991年発表の大ヒット作『OUT OF TIME』が昨年リリースから25周年を迎えた。デモ集とライブ音源、素晴らしいパッケージにくるまれてデラックス・エディションがリイシューされたが、日本でも1月11日にちゃんと対訳付きで販売されて嬉しい。R.E.M.がライフタイムのアイドルである僕は結局すべての形態の『OUT OF TIME』を購入することになるのだけど、大好きなバンドにたくさんのお金を使えることほどファン冥利に尽きることはない。内容も文句なく、初めて聴いたとき(高2の春だった)と同じように新鮮で胸がわくわくし、そこなしの穴を覗くようなミステリアスな部分もあって、きっと50年経っても聴いているのだろうと思った。
今年は僕にとってR.E.M.との出会いから30年となる記念すべき個人的アニバーサリー・イヤーである。九州の片田舎で中学生だった僕に稲妻のようにとどろき震わせ揺さぶったのはベストヒットUSAで見た「世界の終わる日」という曲だった。ほとんどメンバーの登場しないそのMVはなぜか僕の心を捉え、真夜中にそのビデオを何回もリピートした(その頃洋楽紹介の番組は全部録画していたのだ)。次の日の朝になっても魔法は消えず、僕は佐賀から福岡天神のレコード屋さんまで出かけてR.E.M.の『DOCUMENT』という運命のレコードを手に入れることになった。1987年のこと。僕は中学2年生でした。

それから30年、R.E.M.の音楽は僕の思春期、高校生活、大学受験、東京での暮らし、バンド活動、恋愛、就職、良いことも悪いこともある日々のあらゆるタイミングに寄り添って、今もすぐ手を伸ばせば届くところにある。僕はR.E.M.が大好きすぎて、自分の作る歌に彼らからの明白な音楽的影響をほとんど受けていないのだけれど、世界を見るときにいつも考えるのは「R.E.M.なら何て言うかな」ということだ。自分の手元を眺めながら小さな声でつぶやくときも「R.E.M.ならどう伝える?」ということを考える。
彼らとの出会いから30年経った2017年にテレビのニュースから聞こえてくるのは新しい大統領による、悪い夢を見ているかのような品のない姿だ。「世界の終わる日」は「IT'S THE END OF THE WORLD AS WE KNOW IT(AND I FEEL FINE)」という原題で、みんな知ってるとおりいよいよ世界の終わりだ、と歌われるが、最後は「I FEEL FINE(それでも気分がいいよ)」と締めくくられ、市井の人間のしぶとさと力強さを見せる。R.E.M.がレーガン政権にアンチを表明しつづけた8年間の只中にリリースされたこの『DOCUMENT』というアルバムには『LAST TRAIN TO DISNEY LAND』という皮肉めいたタイトル候補案もあったそうだが、30年経ってこのアルバムはなおも揺るぎない意思表示をする。音楽は時を越えて響くからとても面白い。
R.E.M.はドラムのビル・ベリーが抜けて3人組となり、2011年9月に解散したけれど、今年2月にボーカルのマイケル・スタイプを除く3分の2のR.E.M.のメンバーが来日する。きっとピーター・バックはリッケンバッカーをかき鳴らし、マイク・ミルズもR.E.M.のもうひとつの声を聞かせてくれるだろう。バンドをずっとサポートしているヤング・フレッシュ・フェローズ/マイナス5のスコット・マッコイーも一緒だからR.E.M.4分の3とも言える。公演開催が発表された昨年からずっとそわそわしていたわけだが、ついに来日公演が目前に迫ってきた。R.E.M.の音楽的ファミリーツリーを辿って、聴いていなかったいろんなレコードにここ数週間いくつも触れているがそれらがすべて素晴らしいのも嬉しい。
ピーターやマイクの他にも、ファストバックスのカート・ブロック、ドリーム・シンジケートのスティーブ・ウィン、彼らの多岐にわたる活動を支える女性ドラマー リンダ・ピットモンなどアメリカの重鎮たちをいっぺんに観ることができるなんてそうそうない機会。1990年代に熱心にアメリカCMJチャートを追いかけた人なら「え!」という声がもれるはずで、この機会に青春に立ち返るのもいい。アメリカ勢に対してNANOOKはグリーンランド語で歌うグリーンランドのロックバンド。R.E.M歴30年のこの年に、なんだかすごい来日公演を目撃することになりそうで静かに興奮しているのだけど、もっとたくさんの人にこの公演のことを知って、足を運んでもらえたら嬉しいなと思う1月最後の日なのである。
“ICE STATION”
2017年2月7日(火)@ 京都 磔磔
2017年2月9日(木)/2月10日(金)@ 渋谷 WWW
R.E.M.、ドリーム・シンジケート、ファストバックスなどで
活躍した、北極を愛するアメリカのトップ・ミュージシャンと、
グリーンランドでNo.1の人気を誇るナヌークによる
アート・プロジェクトが日本上陸!
Nanook(Greenland)
Peter Buck(R.E.M./MINUS5/Baseball Project)
Mike Mills(R.E.M./Baseball Project)
Scott McCaughey(Young Fresh Fellows/R.E.M./MINUS5/Baseball Project)
Kurt Bloch(Fastbacks)
Steve Wynn(Dream Syndicate/Baseball Project)
Linda Pitmon(Baseball Project/MINUS5/)
Michele Noach(Artist)
詳細はTHE MUSIC PLANTのホームページをご覧ください
