
腕がいいという評判のA耳鼻咽喉科は肝試しとかができそうな古びた建物で中は薄暗く、しかし受付を済ませ階段を上ると天井の高い診察室があって、医療器具は年季の入った古びた物が多くて僕をものすごく不安にさせましたが、腰の折れ曲がった院長先生は精密機械のねじを器用に締めていくような感じで僕のノドに薬を塗って楽にしてくれました。ライブの当日「今日歌うんで声が出るようにおまじないとかないですか?」と尋ねると「ふふっ」と笑って「大丈夫じゃよ」と言ってくれて、薬とかよりももしかしたらそういう言葉が一番効くのかもしれない。
別の日に、設備がいいと評判のB耳鼻咽喉科に行くと、「声帯を調べてみましょう」ということになって僕は硬直、鼻からファイバースコープを入れられカメラで声帯を調べられる。声帯にポリープやら傷なんかの異常がないことがハッキリしてひと安心だけど、不快感とあふれる涙を伴ってすごく嫌な検査である。吸入も独特の味がなんか効いてるような気もするし、全部気の持ちようだな、と思いました。
結局、時間とともに治っていく類の咽頭炎のようで安心、しばらくは誰ともしゃべらずコツコツと孤独な作業をしたいと思います。しかし「仕事で歌を歌ってるんですけどー」と言ったときに耳鼻科の先生の目がきらっと光る感じが頼もしくもあり怖くもあり、相性が100%合うようなお医者さんがどこかにいないものかと数年いろんなとこをさまよってる感じです。