2007年01月28日

ホシフルマチ text

rh0127ホシフルマチ text by 山田稔明

夢のなかで僕は思いつく限り一番高い建物に登って手の先さえ見えない暗闇の中で星空を見上げている。風の音が聴こえるが風を受ける僕の耳がそこになければまったく音のない世界かもしれない、と感じている。

海の向こうの、いつか見た荒野を目をつぶって思い出している。空はとっくに暮れていて目を開けても風景は変わらない。夜に目が慣れてくるとチリやホコリのような星粒が見えてきて、いつの間にか僕はいくつかの星を想像上のペンで繋いで星座を描いている。明かりのない、遠い遠い昔に人々が星空の下で寝転がってゆっくりと巡る天空に魅了されて物語や絵画を創造したのは何の不思議もない当然なことだと、21世紀になってもかわらずたゆたう天の川を見てそう思った。ぼんやりと夜空を眺めて今度は、海の向こうの、まだ見ぬ大平原のことを思い描いてみる。

そして次に思い出すのは子供の頃に見た風景。学校から帰ってきて僕は自分で鍵を開けて家に入り夜が暮れていくのを眺めていた。暗くなってもわざと電気をつけずにカーテンを少しだけ開けて窓から見える国道を行き交うヘッドライトの数を猫を撫でながらいつまでも数えていた。ひとり遊びが上手になって目をつぶると果てしない想像の世界が広がっているのを知っていたから孤独ではあったけど寂しくはなかった。

そして今は魔法の竜が住むという島のことを考えている。その街で子供たちはパフという名前の魔法の竜と戯れて遊び楽しい毎日を過ごすのだが、やがて成長して大人になるとぱったり竜には寄りつかなくなってしまい魔法の竜は悲しみに暮れ穴ぐらへ帰っていく。夢と現実の境界線を行き来する感性を歌った古いフォークソングの中のおとぎ話だ。きっとその島には本当は最初から魔法の竜なんていないのだ。それでも無邪気な気持ちで夜空を仰ぐと見えてくる形がある。星の並び方を見て大きな竜の姿を想像し、僕はきっと星と星とを見えない線で繋いでいくのだろう。

星降る街から果てしない天空に向かって思いを投げて、その思いが曲線を描いて落下する場所にある憧れの場所を夢見ている。今夜はいつもよりも星が大きくたくさん見える夜空だ。



※公演当日配布したチラシに掲載された文章です。

Posted by monolog at 12:47│Comments(2)TrackBack(0)

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この記事へのコメント
「hanalee」の前に、最近山田さんが必ずつけくわえるようになった、
「魔法の竜が住むというハナリーという島が・・・」というお話を聞くと
顏がにこーっと緩んでしまいます。
あのお話が始まったとたんに、魔法がかかる気がします。
「hanalee」、そこも含めて大好きな曲です。
Posted by yumiko at 2007年01月28日 22:42
すごく素敵な文章ですね。小説「夜の科学」、どうにかして
手に入らないんでしょうか。。。
Posted by フク at 2007年01月29日 01:51