ダニエル・ジョンストン自身の音楽には直に接したことがなく、WILCOやBright Eyesがカバーした楽曲を通して何となく知っている程度のアメリカのカルト・シンガー・ソングライターという認識だったのだが、この映画を観て、その強烈な人生に圧倒されてしまった。
ヴァージニア工科大学の銃乱射のあとだったからなおさら考えるところもあった。精神の歪みとそれによる衝動というのはベクトルが違うと産み出すものがまったく変わってくる。宗教的バックボーンや家庭環境のなかで“悪魔”と相対するのはダニエル・ジョンストンだが、地獄のような心地を味わうのは家族や友達である。そして、しかし、そこにイノセントな音楽が降って湧いて形が残る、というのが救いなのか奇跡なのか、と溜め息が溢れる。
あっという間の110分。アメリカという掃き溜めのような社会で、震えるように繊細な感情を抱いて音楽に向かうアーティストの姿とそれを支援して人生をまっとうしようとする両親の愛の深さに感動しました。