
この「ナイン・ストーリーズ」という短編集は僕が高校時代にはじまって数えきれないくらい読んだ本のひとつで、本棚にあった野崎孝訳の文庫(なぜか2冊)やペーパーバッグを引っ張り出してみたら、やっぱりおびただしい書き込みとアンダーラインの数々が染み込んでいて、大学時代のサリンジャーゼミの記憶がよみがえる。
村上春樹氏が「ライ麦畑」を新訳したときにも感じたが、言葉を更新していくことによって視力が矯正されたように見えなかった風景が見えてくることもあるもので、今回の柴田元幸訳の「ナイン・ストーリーズ」も最初の数ページを読んでみて懐かしさと新鮮さが混ざったような感じになった。
音楽にも文学にも心の深いところにまで爪痕とか染みを残す力があるものだなあ、と思った。