2008年11月14日

アメリカを描ききる

渋谷へ。Bunkamura ザ・ミュージアムで開催されている「アンドリュー・ワイエス 創造への道程」を観て圧倒されて帰ってきた。

ワイエスはアメリカン・リアリズムの代表的画家で、代表作のひとつ「クリスティーナの世界」という作品を見たことがある人も多いのではないでしょうか(僕も大学時代に買ったアメリカ詩選集の表紙がこの絵でした)。

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parcowyeth






アメリカの壮大な原風景と極めて繊細な描写とが織りなすたくさんの絵を観るのに1時間でも足りないくらいで、鉛筆でのスケッチや水彩画、
ドライブラシ、テンペラ画(水性と油性の成分が混合した乳濁液を媒剤とする絵画技法)、と想像以上の展示数。会場も盛況。
1930年代の作品から最近の絵まで、90歳を越え老いても尽きない創作人生だ。

この展覧会で一番の見所はワイエスがひとつの絵を描き上げるまでに、下準備となる習作をいくつも経て、遂には完成へと辿り着く、という過程を
追っていけるところでした。シンプルな自画像にも2つ習作があって、「さらされた場所」という絵には9つの習作があった。気が遠くなるほどの行程。
全神経が対象物に向かっていてこその描写だと思いました。「自分の存在を消して絵を描きたい。そこにあるのは手だけ、というふうに」というワイエスの言葉の説得力。

光と影の描写、アースカラーのなかにふっと射す青色の鮮明さがとても印象的で、歳老いた人物がや冬の荒涼とした景色がモチーフの作品が
多くを占めるのになぜかそこに生の力強さとか躍動感が溢れている感じがして、今日僕はとてもいい“気”をもらったと思う。

僕がメモ帳に書きなぐったワイエスの言葉のなかには「季節の中でも冬や秋が好きだ。風景のなかにある孤独感、死に絶えたような雰囲気の向こうに
何かが隠れていて物語のすべては明らかにされていない、という感じがある」とあった。僕が感じたポジティヴィティの要因はきっとこの“明かされていない物語”にあるのだ。

「三日月」という題の絵のポストカードを購入。クリスマスの装飾をつけた木の向こうに細い月。他にもたくさん好きな絵がありました。
さりげなく描かれた鳥の姿や数匹の猫の絵にも目を奪われた。アンドリュー・ワイエスの作品にふれて、“ものつくり”の奥深さを改めて思い知らされました。

帰り道で昨日より少し楕円になった明るい月を見上げて、ああ、もしや目に見えるのに写真に映らないものを人に伝えたり記憶に残したりするために
ワイエスは写実的な絵に全身全霊を込めるのではないか、と思ったりもしたのです。


僕がずっと続けているレコーディング、一番古い歌は「雨に負け風に負け」だと思うのですが、最初のデモから幾度となく手を加えたこの歌もいくつもの習作を経て
もうすぐ完成します。その完成版のなかには最初にデモを作った2004年初めころの音もそのまま採用されていて2008年に録り下ろした音と時を越えて共存している。

“習作”を重ねることの意味がなんとなくわかった気がした一日。


Posted by monolog at 21:09│Comments(4)TrackBack(0)

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この記事へのコメント
ひとりで絵を観に行く時間っていいですよね。
映画を見ている時より自分のペースで感じたことを考えたりすることが、
その場でできるのがいいですよね。

山田さんの感想を読んだら、ワイエス観に行きたくなりました。
Posted by Peppermint Patty at 2008年11月15日 01:01
わ〜!私、ワイエス大好きなんですよ。
mixiのコミュニティにも参加してます。なので、そこでこの展覧会を知って気になっていたところでした。
12月23日まで開催されているのですね。20日の夜の科学に行けたら、是非観に行きたいと思います。
でもでも、鬼太郎の映画も観たいんですよね。。なんか地域ごとに猫娘のコスプレが違うみたいなので…。

私が高2の時、名古屋でもワイエス展が開催されて、その時受けた衝撃と感動は今でも生々しく覚えています。
山田さんがポストカードを購入された「三日月」という作品は、逆さまにして見ると、揚子江を下る中国のジャンクか何かのように見えるということですが、山田さん、ちょっと逆さにして観てみてください。どうですか??
Posted by yuna at 2008年11月15日 01:40
アンドリューワイエス展、僕も行きたいと思っていたので
山田さんの日記見てますます楽しみになりました。



Posted by デオ at 2008年11月15日 01:46
「クリスティーナの世界」はドラマ「あしたの、喜多善男」のなかで
登場してましたね。

ymdさんの文章を読んで私も「見にいきたい!」と思ってしまいました。

「雨に負け風に負け」、アルバムに入るんですね。嬉しいです。
Posted by えり at 2008年11月15日 02:23