九州の田舎町で暮らしていた中学生の頃、UFOを見たことがある(正確には「UFOを目撃した、という断片化した記憶がある」ということになるが)。冬の夜、学習塾の休み時間に僕と数人の友だちはその頃恒例になっていた“こそこそ隠れてタバコを吸う”ために寒空の下で白い息を吐きながら塾から少し離れたクリークのそばでなんかの映画の登場人物みたいにお互いのタバコの先をくっつけてかっこつけて顔をしかめながら火を付け合っていたのです。
真っ暗な山の稜線のほうから唸り声のような音が聞こえてきて僕らは「は!」と空を見上げると大きな円盤が静かに近づいてくるのが見えて、それはすぐに僕らの頭上を越えていった。僕らはタバコをもみ消し駆け出して後を追いかけたけどすぐにその円盤は見えなくなったのだ。・・・という断片的な記憶だけがなんとなく残りカスのように意識の底にあって詳しいことを誰も思い出せない、ということになって、僕らの仲間内では「おれたちは記憶を消されたのだ」という説が有力になったのでした。
僕に関しては、それ以降飛行機に乗るときにどうしたって金属探知機に引っかかるようになったので、「もしかしたらそのときに金属を体内に埋め込まれたのかもしれない!」というオプションまでつけて物語は肥大化していった。ちなみに30歳を過ぎてから全然探知機をスルーできるようになったから体内に埋め込まれた金属は15年でなくなるのだという逸話を付け加えてもいいかもしれないな。
かすかに残る記憶のなかにある、その夜見た円盤はちょうど「第9地区」の冒頭から登場する、ヨハネスブルクの空に浮かぶ円盤にとてもよく似ていた、ような気がしてきた。とにかく期待通り、予想通りの映画で満足しました。あの日あの夜目撃した未確認飛行物体のことをたまに思い出すような男子にはマストな映画だと思います。