2012年10月05日

ハジケる旋律を彼方に捧げる

一昨日の代官山での一日のこと。HARCO、ベベチオとのイベント。ライブ中のMCでもみんな触れていたが、この日は音楽ライター角野恵津子さんの三回忌、彼女が熱心に企画し続けた“ハジケる旋律”というイベント名を掲げての夜でした。とにかく共演者の音楽に刺激される日だった。HARCOもベベチオも随分と長い付き合いだが、この日のように誰かが引き寄せてくれないとなかなか集まる機会がない。照れくさいのだ。

僕はヒックスヴィル中森さんと一緒に。この日のために「些細なことのように」を心をこめて歌う。平日の遅い時間までたくさんのお客さんが熱心に聴き入ってくれたが、僕もHARCOとベベチオ、共演者の演奏をじっくりと聴いた。このイベント恒例だったセッションをぜひ、とライブ直前に言われてバタバタと準備したのだけど、そう請われるのを待っていたのは実は僕らかもしれない。AMERICA「I Need You」日本語詞のカバーをみんなで。いい夜でした。

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以下長文になります。


ライブ中のMCで言ったように僕が1997年にインディーズでCDを出して受けた初めてのインタビューは角野恵津子さんによるものだった。もう15年前の話。僕の生意気な受け答えを角野さんが面白がってくれて記事になった数百文字以外の全文を彼女のサイトにずっと掲載してくれていて、僕は過去の自分の若気の至りをいつもそこに感じながら活動してきたのだけどブックマークしていたページはもうすでに消滅していた。

さっきインターネットアーカイブで調べてみたらそのページに辿りついたので、少し文章を引用したい。角野さんはこう書き出していました。

...これが聴いてびっくり。やったぜ!って感じなんだな。何が“やったぜ”なのかわけわかんないけど、要するに“グー!!”ということをいいたいわけ(笑)。また好きなバンド見つけたウキキと、ほくそえむ私。 彼らがどんなバンドかというと、ギター・ポップのバンドといって、多分その世界の大枠は誤解なく伝わると思う。かなりわかりやすくギター・ポップ。でもそう呼ばれるものの中にもいろいろあるわけで、たとえばメチャ明るいものから陰りのあるものまでとか。そしてそんな視点で見ると、彼らは若干陰りのある部類に入るだろうか。キャピキャピにはずんでいてカラフルで青空丸見えというわけでもなく、どこか少し曇り空が入ってる感じ。メロディーも歌い方もプレイも、どことなく淡々としている。でもポップであることには違いなくて、そのギラギラしていないポップさが気持ちよかったりするのだ。…その山田クンは、新人で若いにも関わらず自分達の音楽を把握できててきちんと話せる人で、かなり中味の濃いインタビューになった。なので雑誌に載せきれなかった分のインタビューを、アリーナ37℃、GOMES THE HITMAN双方の了解を得てここに公開させてもらった。...

で、そのインタビューには今読んでも後ろから頭を叩きたくなるような15年前の生意気な、世間知らずの自分の発言が並ぶ。

あの、当時世に出てたヒット・チャートの曲を聴いてても、べつにたいしたことやってないし、僕らも同じところにいると思い込んでて、これはああ、勝ってると思ったり。で、スピッツ最近いい曲書くよねとか、今度の新曲はちょっとねとかいってて。回りにレコード出してる人とかいっぱいいたんで、自分もそれなりのことをやってるような、勘違いしてたのかもしれないですけど。だから売れたものはそれ自体べつにたいしたことなくても、レコード会社の宣伝の人ががんばったから、売れたんだなと思っててね。(中略)...実は僕も今、1年かそこらですけど音楽業界にいるんで、レコード会社の人とかとも仕事したりしてるんですよ。そういうのでなんか"裏側を知っちゃった僕は…"みたいなのがあったからなんかね、あんまり気がすすまなかった。レコード会社からちゃんと売り出してもらってるような人達は、カッコいいなとは思ってたんですけど、べつにいい曲も書いてないような人達が、売り方いかんで売れちゃうようなのはウソだろとか思ったりね。 」「僕も今音楽業界にいるんで」という旨の発言は映像制作会社でADでこき使われていることを指す。

自分の歌詞についての言及も。

たとえば歌詞を見ながら聴いてもらったとしても、べつに僕がいいたいことも残んないだろうし、感動的だみたいなのもないと思う。僕の詞はそういう、メッセージとして込めるものがあって、それを外部の人に向けて書いたっていうものではなくて、全部自分の中で完結してるから、歌詞についてはべつに他人にああだこうだいわれる筋合いはない。僕のために自分で書いてる歌詞なんだから、歌詞まで口出しされるのはちょっとね。だから、歌詞の評価はしてくれるなって感じはある。メンバーも最初の頃はああだこうだいったりとかしてたんだけど、僕がすぐ機嫌が悪くなるのかなんか知らないですけど、最近は全然歌詞について何もいわなくなった。まあ歌詞についてはそれぞれ聴いた人達が考えて、意味とか解釈してくれてるんだと思いますけど、僕は23才になってもうすぐ24才になる自分の生活環境とか、見える景色とかしか歌うことがない。いいたいこともないし。だからあんまり歌詞を丁寧に書いてるわけでもないですけど、でも言葉はすごい選んで書いてます。」これに関しては…今と考えていることは同じだな。

で、なぜか僕が音楽ライターである角野さんに向かって物申す、みたいな流れに。

だから音楽ライターの人達もきれいな言葉で書いてるけど、本当はこんなこと思ってないぜっていうの、絶対あるじゃないですか。僕はあると思うんですよ。なんか商売だからっていう。まあ、僕らも仕事の時はそれなりに納得できなくてもやるし。

それに対して角野さん「音楽ライターなんて出てきちゃったからひとついっとくけど、私は重箱の隅つついてまでよくないとこ探して、こいつはダメだとかいう気は毛頭ないし、その音楽を最低限、フラットな気持ちで説明しようと思ってる。だからあまりけなしたりはしない。でも商売と割り切って心にもないことは書けないし、こいつこの音楽気に入ってないなとか、気に入ってるなとかいうのは、行間から伝わると思うけど。」と返答。この言葉に角野さんの人となりが凝縮している、と今、朝に思って感動している。よくもこんな無礼な僕をずっと気にかけてよくしてくれたなーと心から感謝しています。


山田クンはまだ23才だが、自分の音楽がどういうものかわかっていて、しかもきちっと話せる。若いとはいえれっきとした大人に、こういういい方も子供扱いしているようで失礼なのだが、それだけちゃんと話せないヤツもいるということなのだ。

 特にその話の中で、"わかってるなあ"と思ったことのひとつは『僕らは、優等生にも劣等生にもなれない』ということ。これは彼らの音楽から漂う気分を、うまくいい当てている。そしてさらにそれを具体的に話してくれた、アリーナ37℃の原稿に使った部分をここにちょっと引用させてもらった。

『まあポップスというのが優等生だとして、パンクが劣等生、反抗的な人達だとすると、なんかどっちにもなれないという。それはまた、外語大の性格であるとも思うんですけどね。それに、なんか胸の中にはむかつくなとかいう思いもあったりするんだけど、それを外に打ち出せるだけの肉体的、精神的強さも持たないというか。いろいろ考えてはいるんだけど、まあいいやって、知っちゃってるフリをしてたり。そんなとこは僕の書く曲の全ての、テーマになってると思う』

 いやあ、彼らの音楽をまだ聴いてなくて、たまたま今これを読んで下さっている方、そうなんですよ、こんな気分を持った音楽なんですよ。また、彼らの作品をすでに聴いてこの記事を読んで下さってる方なら、このコメントに「うん、うん」とうなづいて下さっているのではないでしょうか。

 彼がいうように、その音楽はべつにパンクのようにシャウトしてアジテーションしている、世間一般にいう不良ってわけでもない。かといって、"うわあ、コイツ先生とか親に気に入られそう!"てな優等生でもない。そしてそのどっちつかずのところになんとなくブルーな雰囲気も漂っていたりして、これがなかなか面白いのだ。でもあえてどっちかというと、さすが外語大に受かっただけあって、優等生の方が少し勝っているのだろう。それが彼らのポップ性となって、現われているのだと思う。

 それともうひとつ面白いなあと思ったのは、べつにその作品で社会批判をするわけでもなければ、聴き手に対して、"こうしよう、ああしよう"というメッセージがあるわけではないのはもちろん、"こう思わないかい?"という問題提起でさえしてないのに、実はけっこう今の音楽業界や社会状況に対して、批判的な目は持っているということ。特に音楽業界に対する不信感みたいなものはかなり強いようで、音楽ライターまで批判されてしまった(笑)。

 でもその怒りを作品であらわにしないというのは、ある意味さめてるともいえるわけで、その辺が今時の若者かなとも思う。そしてそんなクールさや冷めた気分、そしてそれゆえにうっくつしたもの、そういった雰囲気は作品からムンムン漂ってくる。そして人によってそんなムードが好きか嫌いかは絶対あると思うが、少なくとも彼らの作品にウソがないということは、多分聴いた人ほとんどが理解してくれるのではないかと思う。



オンラインで見つけたインタビュー全文のアーカイブスはしっかりハードディスクに保存したので折りにふれ現在位置確認するためにこれからも読み返したいと思います。僕は変わったところもあれば変わらないところもあり「やがて何もかも変わってしまっても/なにひとつ変わらない気もするなあ」と数年前に書いた歌詞をぼそぼそと歌ったりする朝だ。時間を越えて代官山の夜を演出してくれた角野恵津子にありがとうと言いたい。10月になると思い出すこと。

Posted by monolog at 08:24│Comments(0)TrackBack(0)

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