2012年10月28日

言葉とメロディのワークショップ【作品発表/“詞先”編】

ミルブックスと山田稔明、そしてスペシャルゲストに作家/作詞家の高橋久美子さんを迎えて10月3週に渡って行われた「言葉とメロディのワークショップ〜作詞の楽しみ講座」。歌詞のついてないメロディに言葉をつける“曲先”とフリースタイルの“詞先”のふたつの宿題を課し、それを発表(朗読)する最終回という流れになりました。どの作品もお世辞抜きに予想をはるかに超える力作ばかりで、ビックリしたり圧倒されたり言葉の可能性を再確認する時間でした。

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振り返ってみると歌詞の書き方について特別なことをお話したわけではなく、ただ、2回目講座時、ゲストの高橋久美子さんとの対談のなかで「“あの日の”とか“あのときあの場所で”とか漠然としたごまかしフレーズを使わないほうがいい」「意味もなく風が吹いたり空が青かったり雨が降ったりしないほうがいい」という提言をみんなが忠実に守ったことででとても具体的でイマジナティヴは作品たちになったような気がしています。素晴らしい詩作をクローズドなものにするのはもったいない!と、受講した皆さんの許可を得て、作詞ワークショップの成果をここにご紹介させていただきます。

ワークショップ参加の皆さんへ。作者名は記載していません(もし「この歌詞、私が書きました!」とアピールしたい人はコメント欄などに宣伝含めて投稿してもらってかまいません)。「やっぱり載せないでほしい」とか訂正とか僕の書き間違え、不手際などあったら指摘してください。テキストで送ってくれた人は活字で、今日の時点でテキストデータが僕の手元にない人は提出してくれた紙を公開しました(テキストでの掲載を希望する方は巣巣にメールを送ってください)。論評は当日その場でお伝えしたのでここでは作品を並べて紹介するのみとします(掲載順不同です)。どれもその人にしか書けなかったその人の言葉になっています。お楽しみください。

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作品1:「雨と休日」

雨ふる公園 三角のすきま
白い部屋に ふりつもるメッセージ
遠い君から メール届いた

あったかい紅茶にミルクをそそぐように
ふわふわ時間が流れ出す
大きな小さな子供になって
さぁ 遊ぼうよ

待ち合わせは 雨と休日
また 君に会えるね
おみやげ どうぞ バウムクーヘン


予約がいるの? 電話ボックス
光の魔法使いが
かたちのないもの 見せてくれる

真っ暗な部屋で迷子になろうとも
ずいぶん前から 知ってるから
かすかに見える 扉の方へ
次はどこへ行こう

そう この時は 雨の休日
それは夢の通りみち
はしゃいで 水あび 白いアヒル



作品2;「タイトルなし」
猫舌のふりして時間かせぎした
一人暮らしだから待っている人はいないけど
なんとなく帰りたくない日だった
甘いベトナム珈琲に砂糖を二本
舌が痺れていく感覚が私を安心させる
なんとなく帰りたくない日だった

それでも家には着くもので
朝に散らかしたままの部屋が
そのままの姿で出迎えて

浮いているみたい
足にはきちんと靴を履いているのに
浮いているみたい
足にはきちんと靴下履いているのに

ベッドにはいってお布団かぶれば
地面を感じるかしら
眠れますように
眠れますように



作品3;「マゼンタ」

夜の海辺に漂流した 昨日までの記憶が
粉々になって光を放つ 行く宛てのない海月みたいだな

温度のない光が 東京の迷路を彷徨っている
まるで東京に棲みつく蛍 それぞれの羽を休めに帰るのかな

踏切前 霧雨が照らされる赤色の点滅
通り過ぎる大きな音 思い馳せる小さな過去

右手に傘の柄を握って 境界線をイメージする
深海に沈む夜も 僕の身体中には
赤い航路が広がって 水平線を見据えてる
さあ、ほら夢から覚めるよ

夜明けと共に侵入した 木漏れ日の光が
四畳半を敷き詰めて 誰も知らない世界地図作り上げた

群像劇 そよ風で揺れている形のないプリズム
壁にかけたカレンダー 破り作り飛ばすグライダー

窓際、紙の翼 背負って 世界線を越える旅
世界が始まる朝は 君の爪先から
目一杯、高度あげて 地平線を臨んだら
さあ、ほら夢から戻れない

君が耳元でこっそり教えてくれたシャングリラ
それはいつだってあさってくらいの未来にあったんだ

昨日までのペンを握って インクで滲ませてく未来
深海に沈んだ言葉も メロディーで救い上げて
色付く航路が五線譜で 放物線を描くから
君の好きな色で歌ってよ
やがて夢から覚めるまで



作品4;本末転起(ここにいること)

大切なことと つまらないことを 取り違えるのは
もったいないことだよって
診察室で 先生が教えてくれた
だけど つまらないことが わたしを
深く 深く 傷つけるよ
大切なことが 何なのか さがしている

病気になって 仕事を休んだよ
何とか乗り切るしかないって 言われたよ
時が経てば 風向きは変わるから
あなたは 通りすぎていくから
悔いのないようにって 決めたから

大切なことと つまらないことを 取り違えるのは
もったいないことだよって
診察室で 先生が教えてくれた
だけど つまらないことを わたしは
いつも いつも 求めてるよ
つまらないことが わたしには 大切なこと


勇気を出して 仕事に戻ったよ
何とか乗り切るしかないって 言われたよ
時が経てば 風向きは変わるから
すべては 通りすぎていくから
悔いのないようにって 決めたから

いつのまにか クスリの数が増えていたよ
わたしは まだ おかしいのかな?
あなたは まだ 笑いかけるんだね
些細なやりとり ここにいること
あぁ わたし 笑っている



作品5;「あおいもりとかわのさき」

外から丸見えの 木もない公園 よくエンストする 君の原付
途中で雨に降られて びしょぬれの登場 ひどい王子様
夜中に抜け出して 灯りもない道 黄色いナンバー 岬へ向かう
途中で波に襲われ うみぼうず登場 ひどく驚いた

永遠の意味も知らないくせに それにすがった 体全部で

ピントはいつも君にあって 背景は全部ぼやけていた
それ以外何も見えなくていい 本気でそう思ってたんだ


10時5分前の 急な下り坂 ころげそうに走る 家路を急ぐ
呼吸も整えられずに 受話器を握って 「もしもし」を交わす
700km先の 夜に包まれた 君の1日を あらすじだけでも
途中で睡魔がきても お帰りいただくわ 邪魔はさせないよ

本物が何か知らないくせに それを信じた 心全部で

ピントはいつも君にあって 背景は全部ぼやけていた
それ以外何も見えなくていい 本気でそう思ってたんだ



作品6;「ねむり」

台形の 上に登って 走る
きみが 僕に宛てていた日記と

頬を 撫ぜるのは北風
桃の 木々が花開く

なんにも 気づかなかった
すべてに 気づいていた
全部ほんとうのこと
恥晒しな身体を横たえて!

終電と リノリウムの共通点
水面 冷えた煮凝りが覆う

肩を 叩くのはナイフ
桃の 花が瞬いた

そこには なにもなかった
それでも 愛している
ここは深呼吸の世界
盲目の未来を携えて!



作品7;「ライン」

抗議の声 さえぎるバス
鉄の柵 金曜の夜
ひかれた線がわけるもの

誰にもひけないはずの線
横断歩道の白線も 向かう道つなぐのに
ただ分けるだけの線なんてどこにもない

こちらと向こう
手をのばせば届く距離
こちらと向こう
それらがひいている線は何
こんな狭い国の中で

笑わない目 背中は壁
閉じたまま 開かない口
見えない線がひかれてく

誰にもひけないはずの線
水平線も稜線も 近づけば遠ざかる
くっきりひかれた線なんてどこにもない

こちらと向こう
手をのばせば触れる距離
こちらと向こう
果てしなく遠いすぐ隣
こんな狭い部屋の中で

手をのばすことは許されないのか
手をつなぐことはもうできないのか



作品8;「アルーとパカーのリニューアル」

それはいつだったかの春のコト
アルーとパカーは出かけたよ
コートダジュールを目指したよ
パリダカールは冷やかすよ

それはいつだったかの夏のコト
アルーとパカーは休んだよ
歩いて行くのは無謀だよ
真夏の暑さをなめてたよ

あてどもなく出た旅だ
とめどもなくベタ凪だ

アルーとパカーのリニューアル
自分探しは遭難続き
アルーとパカーでメモリアル
思い出作りは傲慢尽くし


それはいつだったかの秋のコト
アルーとパカーは食べてたよ
何を食べても美味しいよ
休み癖が抜けないよ

それはいつだったかの冬のコト
アルーとパカーは帰ったよ
だいたい出来たし満足だよ
出かけた理由は忘れたよ

あてどもなく出た旅だ
とめどもなくベタ凪だ

アルーとパカーのメモリアル
順風満帆お家が一番
アルーとパカーでリニューアル
堂々巡りもある意味真理



作品9;「坂道から万華鏡」

古いバスのボタン
押したくて でかけた
「降ります」

くもりガラス 坂道に
かさなる空

のぼってゆくひかりの
うた ききながら
あてはないけど ずっと


万華鏡のぞいて
いくつもの おかえり
くるくる

きんもくせい 香りたつ
いっしゅんの窓

「次は終点」の文字
ともるころには
たどりつくから きっと



作品10;「かいる」

どうしてころしちゃいけないの?
うしはいいのになんでだめなの?
瞳は丸くふくらんで
答えをじっと待っている

たとえば空の青さとか
そんな問いならまだ楽しい
けれど根っこにふれるのは
まだ準備ができていない

どうして?
ねえどうして?
 
何も言えないまま
のらりくらりごまかして
でもY字路の正念場
まずはどうしてだろう?
いっしょに考えてみよう

やさいはこころがないからいいの?
新しく入ってきた疑問に
さらに瞳はふくらんで
今にも爆発しそう

ねえどうして?
ねえねえどうしてなの?

やわらかな手を引こう
そろそろちゃんと答えよう
右か左かどちらへ行くか
もちろん明るいほうへ
でも今日も浮かばない

いっしょに考えよう



作品11;「ひこうきにのって」

いつもは 顔を思いっきりあげて
ながめてみている 空と雲
きょうは 見下ろしてやるんだ

ゆっくりズームアウトしていく
地上の景色が 地図になる
おでこがくっつくくらいに
窓に近よって のぞきこんだ

三浦半島 海と猿島
切り抜き貼ったデコパージュ
こぼれていった思い出が
つまった街も
その中にある


高度が上がって 雲と並走
わたあめ ふわふわ流れていた
きょうは 置いてきぼりにする

心がちゃんと響きあっていた
うれしかった できごとは
思い出すのではなくて
いつも 追いかけていきたいんだ

いま これから向かうのは
海と港 神戸の街へ
自分でしかけるサプライズ
うれしい気持ち
そこにある



作品12;「ライフサーフィン」

せわしないヒールで駅へ  足早な波に乗って
肌寒い朝をぬけると  夜の真ん中 帰り道

同じような日々にピリオド
流れそうな色にサヨナラ

まっすぐにすすんでいく 光のような一日を
まっさらな自由帳に 絵を描くような毎日を

はきなれたシューズで街へ  軽快なリズム乗って



作品13;「グ?リ?コ」

苦い思い出は チョコレートかけて
食べてしまおう こげないうちに
消えない後悔は 砂糖をまぶして
ミルクとともに 飲みこんじゃおう

明日のことだけ考えよう
あれもこれも ぜんぶぜんぶ
気にすることなんてないよ

いいガッコ行ってさ
いい会社行ってさ
そんな人生退屈さ
過去はとりあえず置いといて
おもしろいことしたい
おもしろいことしよう
おもしろいことしようよ

嘘をついたときはちょっと反省
舌でとかしてほんとのことを

間違えたときは笑っていればいい
パイナップル食べて忘れちゃおう

未来のことだけ考えよう
同じようにぜんぶぜんぶ
染まるひつようなんてないよ

グ?リ?コで世界一周
毎日がおかしパーティー
そんな人生最高さ
いまはとりあえず置いといて
おもしろいことしたい
おもしろいことしよう
おもしろいことしようよ



作品14;「タイトルなし」

鼻がつーんとなる わさびのような日
どこからか金木犀 毎年 お決まりの
黒田さんちから ホワイトシチューのにおい
せんさいになる 鼻呼吸
気にならなかったものが気になるきせつ
冬のにおいは どこからともなく
寒さとともに わたしに気づかせる
今年も もうすぐおわりだよって
耳がきーんとなる アイスのような日
朝から浴びるシャワー そのまま 家をでる
チャリンコこいで パリパリにかたまる髪
かたまりになる 水てき
すくいようのないものが手にのるきせつ
冬のかたちは どこからともなく
つららのように わたしにつきささる
今年の おわりにまぁだだよって

*3週目発表時に参加できなかった作品です



作品15;「タイトルなし」
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作品16;「夏の終わり」
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作品17;「幸せのカタチ」

うれしい事 悲しい事もあるさと
もたついていてもいい 生きてさえいれば

昨日悲しい事がありました
はじき出された僕は行き場所がない
飲めない酒を無理してあおって
明日から歩むべき道が見えなくて泣いていた

悔しい事でつぶれそうになるけど
まだ出来ることはいろいろあるだろう
上手くいかない事があったとしても
次に出会える何かにつながっている

今まで出会えた優しい人達に
支えられてたことを思い出して
それぞれの人の笑顔があることが
僕の幸せをかたどっているのだと気づけたよ

不幸せを知らなければ
幸せのカタチを知り得ないだろう
神様は僕達のそれぞれに
幸せのなる種を植えている

だから 切ない事あったっていいじゃないか
それを聞いてくれる仲間がいるのなら
苦しい事あったっていいじゃないか
幸せの糧になると思えるなら

悔しい事あったっていいじゃないか
まだできる事はいろいろあるだろう?
やるせない事あったっていいじゃないか
幸せの糧になると思えるなら



作品18;「地図のゆくえ」
写真 12-10-28 10 11 46





以上、フリースタイルの「詞先」作品でした。「曲先」に関しては当日タイムアウトとなり
各自による発表ができなかったので、すべて山田稔明の歌唱により発表するということに
なっています。現在鋭意準備中なのでそちらに関しても今しばらくお待ちください。

皆さんお疲れさまでした。心がハッとする時間を過ごすことができて楽しかったです。
Posted by monolog at 10:39│Comments(0)TrackBack(0)

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