2013年01月24日

Song of the Week vol.3 “Gypsy”

淡々と粛々と積み重ねていく“Song of the Week”、年明けからずっと作業部屋がいつでも録音スタンバイ状態なので気分転換に好きな歌を歌っては録っているのです。歴史的なクラシックが2曲続いたあとの3回目はスザンヌ・ヴェガ、僕が一番好きな歌を。1987年にリリースされた2ndアルバム『Solitude Standing』は『孤独』という邦題がつけられ、当時中学生の僕は1曲目にまったくの無伴奏で歌われる「Tom's Diner」やドメスティック・バイオレンスについて歌われる「Luka」に衝撃を受けたことを覚えています。

昨年ビルボード東京での来日公演を観にいきましたが、そこでも聴きたい歌はすべて聴くことができ、なかでも「Gypsy」という歌は彼女自身から「10代の頃サマーキャンプで会った、リバプール出身の男の子についての歌なの…」という微笑ましい告白を伴って歌われました。齢50歳を越えたスザンヌが「Gypsy」を歌っている間若かりしショートカットの女の子になったような幻影を観るような、雪が降って積もったその夜はちょうど1年前の昨日のことでした。

アコースティックギター(Taylor)弾き語りに鍵盤ハーモニカとコーラスをダビングし、freewheel 手塚雅夫氏にミックスしていただきました。






“Gypsy”

You come from far away with pictures in your eyes
of coffeeshops and morning streets in the blue and silent sunrise
But night is the cathedral where we recognized the sign
We strangers know each other now as part of the whole design

Oh, hold me like a baby that will not fall asleep
Curl me up inside you and let me hear you through the heat

You are the jester of this courtyard with a smile like a girl's
Distracted by the women with the dimples and the curls
by the pretty and the mischievous by the timid and the blessed
by the blowing skirts of ladies who promise to gather you to their breast

Oh, hold me like a baby that will not fall asleep
Curl me up inside you and let me hear you through the heat


You have hands of raining water and that earring in your ear
The wisdom on your face denies the number of your years
with the fingers of the potter and the laughing tale of the fool
the arranger of disorder with your strange and simple rules
now I've met me another spinner of strange and gauzy threads
with a long and slender body and a bump upon the head

Oh, hold me like a baby that will not fall asleep
Curl me up inside you and let me hear you through the heat

With a long and slender body and the sweetest softest hands
and we'll blow away forever soon and go on to different lands
and please do not ever look for me but with me you will stay
and you will hear yourself in song blowing by one day

But now hold me like a baby that will not fall asleep
Curl me up inside you and let me hear you through the heat


“Gypsy”

あなたは遠くの国からやってきた
青くて静かな日差しに浮かぶコーヒースタンドと朝の街並をその瞳に映して
夜は大聖堂のように降ってきて私たちはそこに些細な兆しを見つけた
それまで他人だったふたりが運命的な出会いを知るのよ

ああ、眠らない子供を抱くみたいに私を抱きしめて
あなたの腕のなか猫みたいに丸まって吐息を聞いていたいな

少女みたいに微笑んだあなたはこの中庭の道化師
えくぼとカールの女たちや可愛くて意地悪な女たち、
内気でおしとやかな女たち、この胸に抱きしめてあげると約束した女たちの
風にふくらむスカートに心を取り乱したのね

ああ、眠らない子供を抱くみたいに私を抱きしめて
あなたの腕のなか猫みたいに丸まって吐息を聞いていたいな


優しい雨のようなあなたの手、耳にはイヤリング
その顔に浮かぶ知性は過ぎ去りし日々をなくしてしまう
陶芸家のような指、可笑しな笑い話
あなたは一風変わったシンプルな規則で混沌を治める人
ああ、私は不思議な薄織の糸の紡ぎ手に出会ってしまった
細長くしなやかな体、頭にこぶのある人

ああ、眠らない子供を抱くみたいに私を抱きしめて
あなたの腕のなか猫みたいに丸まって吐息を聞いていたい

背の高いやせっぽっち、素敵な柔らかい両手
私たちはもうすぐ永遠に離れ離れになり、それぞれの国に帰るの
絶対に私のことを探さないでね あなたのことは忘れない
自分のことがうたわれた歌が流れてくるのをある日聴くことになるかもしれないよ

でも今はお願い 眠らない子供を抱くみたいに私を抱きしめて
あなたの腕のなか猫みたいに丸まって吐息を聞いていたいなあ...

(訳・山田稔明)




スザンヌ・ヴェガはとても英語の発音のきれいな人で、その凛とした歌を聴くのが好きだ。高校時代に英語の先生が『孤独』収録の「Night Vision」冒頭の「By day give thanks, By night beware」という歌詞を引用して「昼には/夜には」という“by”の用法を授業でレクチャーしたことを25年だった今も鮮やかに憶えている。彼女の歌を聴くときに僕の脳裏にはまだ行ったことのないニューヨークのイメージが浮かんでくる(ニューヨークの街でイヤホンで『孤独』を聴きながらコーヒースタンドで人間観察するのが夢です、「Tom's Diner」のように)。

「すべての神秘はAマイナーからやってくるのよ」とはポール・ゾロ著「インスピレーション」におけるインタビューでの彼女の言葉だけど、この歌は牧歌的なメジャーキー、緩やかなフォークソング。冷たいナイフに触れるようなひりひりする歌同様に、素晴らしい。2010年のセルフカバー作『Close-Up vol.1: Love Songs』でも弾き語りで再演されているが1987年のオリジナルは揺るぎないとてもシンプルな名演で時がたっても全然色褪せない。

鎌倉カフェ・ヴィヴモン・ディモンシュの堀内さんが畠山美由紀さん小池龍平さんとタッグを組んで昨年制作されたアルバム『Coffee & Music -Drip for Smile』のなかでこの歌がカバーされていてハッとした。スザンヌ・ヴェガ以外の声で初めて聴いた、良く響くバージョンでした。堀内さんに経緯を尋ねたら畠山さんが歌いたいと持ってこられたナンバーだそうで、歌の中には1行「coffeeshops and morning streets in the blue and silent sunrise」という記述があるだけなのだけど、それ以降僕にとっては朝のコーヒーの時に口ずさむ歌になったのでした。


“Gypsy”
Suzanne Vega
Posted by monolog at 10:45│Comments(0)TrackBack(0)

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