2013年08月28日

夏の終わりと“オン・ザ・ロード”追体験



来月公開されるフランシス・フォード・コッポラ製作総指揮、ウォルター・サレス監督作「オン・ザ・ロード」の試写を観させていただいた。アメリカ文化に魅せられた人間にとっては金字塔、ジャック・ケルアックが1950年代に発表した伝説的小説「路上」。ケルアックとサリンジャーはどちらも“はしか”のようなもので、僕はそのどちらの“はしか”にも罹患しもう25年くらい経つ(今朝知ったサリンジャー未公開小説5作品の報にも興奮している)。映画化に際しキルスティン・ダンストとクリステン・スチュアートという僕の好きな女優がヒロインに選ばれたこともありとても楽しみにしていたのです。夏を見送るような夕方に出かけていきました。

ケルアック本人の肉声、路上の歌から始まる映画「オン・ザ・ロード」は2時間20分の長尺、饒舌に息継ぎもなく書き連ねられたスクロール版の押し寄せる活字が波打つのを想像させるのにじゅうぶんなボリュームだった。すべての登場人物が生き生きとして、実在の人物像ともかちっとリンクする。煙草、マリファナ、アルコール、ベンゼドリン、破天荒な意識の旅。ヒッチハイク、グレイハウンド、すれ違うモーターバイク。ニューヨーク、デンバー、サンフランシスコ。手を伸ばしても届かない“向こう側”と憧れの風景ばかりが舞台だから少しでもこの映画のなかの世界に浸っていたいと思う時間。

大学3年のときに「ビート文学」という授業があって喜び勇んで選択した。たくさんのビート作家と代表作を記載した分厚いペーパーバックが教科書で、太った若いアメリカ白人の女性が先生だった。「今日が天気はいいわね。中庭に出て詩を読みましょう」とか「即興で詩を書いてみて」とか、無軌道で行き当たりばったりでとても自由で楽しい大好きなクラスだったのだけど、途中で先生が体調を崩し受講者全員がなんとなく試験もなく単位をもらい翌年からはその授業はなくなってしまった。僕は「blue sky, clear wind blowing...」などとドギマギしながら陳腐な即興詩を唱えた記憶があるけれども「いいわね!ケルアックならどういうかしらね?バロウズなら?」というような大学の授業らしからぬセッションを今でも憶えている。

話の大筋は把握していても、実は僕は「路上」を読み終えたことがない。ケルアックの“Haiku”や中編、散文は読めるだけ読んだが「路上」に関してはいつも途中で挫折してしまうのだ。なので今回の映画は僕にとっての“読みなおし”体験でもあった。今月からまさに青山南訳の「オン・ザ・ロード」を読んでいる最中なのだけど僕の目はどんどん活字を追っていく。僕の意識が“路上”に向いたということだろうか。アメリカに行きたくなる。どんどん彼の地に想いを馳せてしまう。かつてサンフランシスコで訪れたシティ・ライツ書店のことを思い出す。疲れて入ったコーヒースタンドは偶然にもケルアック含むビート詩人たちの憩いのお店だったことも思い出す。この感じならほどなく「オン・ザ・ロード」を読破できそうだ。

この「路上/オン・ザ・ロード」が僕らを惹きつけてしまう理由は、それがアウトサイダー自身の物語だからではなく、生粋のアウトサイダーのそばにいながら憧れ翻弄され続ける人間側から綴られた記録だからだ、と感じる。優等生にも劣等生にもなれずに生きてきた僕はケルアック(=サル・パラダイス)の視点に同調して興奮したり蔑み哀れみ悲しみの感情を行き来して、この破滅的な路上の旅を追体験できるのだ。また何度も観たい映画。唸りをあげるビバップ、ハードバップやブルース、当時のクラブミュージックも素晴らしい。『イントゥ・ザ・ワイルド』の音楽を担当したグスタボ・サンタオラジャが手がけたと知り納得。季節がひとつ進んだ頃にまた劇場で観るつもり。8月30日公開。


追記:僕がケルアックを知って本を手に取ったきっかけは、やはり憧れのバンドR.E.M.であった。マイケル・スタイプは1台のヴァンでアメリカじゅうをツアーしたバンド初期のことを「80年代バージョンのビート気取りだった」と回顧する。「Nightswimming」はマイケルが捧げたケルアックへのオマージュとして知られ、僕はその歌のオマージュとして「月あかりのナイトスイミング」を書いた。いわば孫引きの系譜なのだ。






Posted by monolog at 09:14│Comments(1)TrackBack(0)

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この記事へのコメント
中庭でのビート文学の授業なんて素敵な先生ですね!理系の大学だったから憧れます!山田さんの音楽に出会ってから丁寧に紡ぎ出された言葉と音楽が感動を生み、人との繋がりを拡げていくことを実感してます!ケルアックやサリンジャーで培ったたび
Posted by ニャンボのママ at 2013年08月28日 18:06