




昨日のこと、朝からそわそわするのは台風のせいだけではなく、待ちわびたイギリスのシンガーソングライター、ベス・オートンのライブがあるから。去年リリースされたニューアルバムも6年ぶりという、とても寡作でしかしコンスタントに記憶に残る作品を産み落としている人、来日は13年ぶり。幸運にも僕は13年前のライブを目撃している。そのときもらったサインと一緒に撮った写真は宝物としてとってある。今回は朝霧JAMとこの日の渋谷クアトロ1公演のみのプレミアムな日、それが雨降止まぬ嵐の夜となりました。
最前列、すぐそこに現れたベス。13年ぶりに観るベスは変わらず背が高く細く顔が小さく瞳が青い。台風到来にワクワクしている様子で、立ち居振る舞いもとても可憐。アカペラから始まってアコースティックギターの弾き語りのシンプルなステージ。変則チューニングを多様し、数曲ピアノも演奏。前半は新譜を中心にしつつし古い歌も織り交ぜて歌う。楽曲がフォーキーな趣きからヴァシュティ・バニヤン的なトラッドな響きに変遷しているように感じて興味深い。ときにかすれたり裏返ったり絞るように吐き出したり、その声はライブでしか聴くことのできない生々しさで、まるで消えそうになったり燃え盛ったりする風前のキャンドルのようだと感じる。観客であるわれわれはその火が消えないように何かに燃え移ったりしないように息を飲んで見つめている、という感じ。
中盤からゲストにジム・オルークが登場、ジムがプロデュースした2006年の『Comfort of Strangers』の曲を多く演奏。ふたりは8年ぶりに再会したそうで、1曲1曲合奏するごとにキャッキャと楽しんでいる様子が微笑ましく、ジムの暮らす東京でのライブだからこそ叶ったコラボレーションにベス自身も喜んでいるようでした。アンコールで一人で歌われた「Pass in Time」の歌のダイナミクスが印象的、ラストはジムのドローンギターに溶けるように1stアルバムから「Galaxy of Emptiness」、90分の嵐の夜のステージでした。終演後はサインの列。「13年前もこの場所でお会いしました」と伝え、その青い瞳に吸いこまれそうになる。
そういえばこの夏の『新しい青の時代』レコ発ライブのオープニングSEで流したのはベス・オートン新作に収録の「See Through Blue」という曲でした。問い合わせも多かったので紹介します。