





カレンダーを一枚めくって弥生、雨の土曜日。蔵前に新しくオープンするNAOT TOKYOでのライブでした。去年からいろいろな点と点、縁が繋がって実現したこの日のライブを僕はずっと楽しみにしていました。イスラエル生まれの靴NAOTを初めて買ってから数年、自分の足のかたちにぴったりフィットしたこの靴は僕をこの日の会場に連れてきてくれたのです。高野寛さんとの共演、会場入りして家に帰るまで(2晩明けてもまだ)ずっと幸せな時間。
リハーサルで高野さんを目の前にして「確かな光」をこんなふうにカバーしています、と果敢に披露、そこに高野さんがキラキラしたアルペジオを重ねてきてくれたときには鳥肌がたちました。札幌からツアーに来ていたキッコリーズのカポウさんは20年来の高野さんファン、急遽彼女もセッションに参加することになり緊張の面持ちでしたが、会場準備からずっとスタッフ全員が和やかな雰囲気でこの日のライブが素晴らしいものになるという予感がありました。
僕は履き慣れた靴で軽快に歩くような曲を選んだセットリスト。1曲目の「home sweet home」はソロ活動をするきっかけのうちの1曲、続く「光と水の新しい関係」も落ち葉の道を一歩一歩と踏みしめていく歌。15年前に書いた「keep on rockin'」は懐かしくこそばゆく、しかし今の感情とクロスするところもたくさんあって愛しい。足元を確かめながら進む「長距離ランナー」、岐路に立ち尽くす「それを運命と受け止められるかな」、自分の中で組み立てたストーリーを辿るような楽しさがありました。
高野さんとのセッションはまだCDになっていない新曲「太陽と満月」。色を塗っていないドラフトに高野さんのギターとコーラスでカラフルな抑揚を添えてもらいました。「予感」は高野さんに歌ってもらいたくてリクエストした選曲。カポウさんのノコギリとオクターブユニゾンも加わって歌のオーラのようなものが何倍もふくらんだように感じました。最後は初めて出したCD(メジャーデビュー盤にも収録)から「tsubomi」を生声とギタレレでスピーカーを通さずに。


高野さんのステージは歌とギター、挿し込まれるお話すべてが刺激的で、僕はずっと前のめりでこの音楽空間の空気を深呼吸していました。高野さんはデビュー25周年アニバーサリーの最中、僕はデビューから15周年。そしてともに射手座のB型、さらには同じギターケース、同じギタースタンドに同じ革張りの譜面ファイルというおまけも伴って「シンクロニシティ」ということについても考えた。歌にまつわる逸話が僕にはとても興味深く「夜の海を走って月を見た」には違う角度から光が当たった。そして本編の最後、生声と生ギターで歌われたのは25年前のデビュー曲。はるか先を進む長距離走者(奏者?)の凛とした力強い背中を見せていただいた気がしました。感動した。
そして高野さんと僕とカポウさん3人でアンコールセッション、楽しかった時間も必ず終わるのだ。言おうか言うまいか迷っていた夢の話をあたたかく笑って受け止めてもらって、歌ったのは「夢の中で会えるでしょう」、なんと幸せな音の重なり。そして最後は「確かな光」。この曲を作った背景も初めて聴くことができて、なんとささやかで、しかしとても大きな祈りの歌だなあと感慨深く思いながら演奏しました。最後のリフレインがずっと終わらなければいいのにな、と思った。
風の栖宮川夫妻とスタッフのみんな、音響はsonihouseの多面体スピーカー、オカズデザインのレモネードと甲斐みのりさん心尽くしのお土産。そして満員のお客さん(窮屈な思いをさせて申し訳ありません)といろいろ手伝ってくれた友人たち。川を滑る屋形船と水面の光、雨に煙るスカイツリーなどなどすべてのものがこの日のライブを一期一会のものにしました。またこんな機会が巡ってくればいいな。打ち上げも楽しく高野さんとの音楽話はこれからの自分の糧になります。下の写真は風の栖 宮川さんファミリーと。どうもありがとうございました。

そして一夜明けても余韻は続き、池袋の東京芸術劇場で開催中の「Moving Distance:2579枚の写真と11通の手紙」のプログラムのひとつとして行われる高野さんのライブを観にいくことに。予想していたことだけども前日の蔵前でのライブとはまったく違う内容、前日が“光”だとすればこの日は“影”にフォーカスしたようなパフォーマンスに心が震えた。細野晴臣「終りの季節」YMOの「cue」とカバーも交えて、津波後の瓦礫の中から回収、洗浄をされた2579枚の写真のインスタレーション「記憶の壁」に触発された即興演奏は特に圧倒的で、このシーンを目撃できたことを幸運に思いました。2日間高野寛さんという不世出のアーティストに接して、確実に自分のなかに変化があって、それは自分の15周年というアニバーサリーにも必ず反映されることになるでしょう。素晴らしい2日間でした。


