2014年06月26日

京都もしも屋のためのサブテキスト〜すべての点と点は繋がって線になる



明日6月27日(金)は京都へ行ってもしも屋というお店で音楽ライターの岡村詩野さんと一緒にトーク&ライブのイベントを行います。詩野さんとはもう15年来の知り合い、ずっと仲良くしてもらっているし、お互いについてもいろんなことを知っている。2年前には久しぶりにしっかりと取材を受けて、その後ご飯を食べにいってここ数年のことについて長話もした。リリースのたびにフォローしてくれるし、僕も詩野さんがラジオに出るときは毎回楽しく聴いている。今日、ふと思いだして納戸の棚を探ってみたら今から15年前の、『weekend』の季節が終わった秋に制作された「new atlas e.p.」のフライヤーを見つけた。このなかで詩野さんは長いライナーノーツを書いてくれていた。明日のイベントの副読本、サブテキストとして当時の文章をそのままここに転載したいと思います(詩野さんには申し訳ないけど事後報告します)。僕がちょうど25歳のころ、そこには保坂和志の話、猫の話が出てきます。長い文章ですがぜひご一読ください。


Liner Notes for “new atlas e.p.”

 夜ともなれば半袖ではつらい、少し肌寒くなってきていた9月のある日、駅から歩いて10分ほどのところにある下北沢のクラブで、山田稔明くんがおもむろにカバンの中から、「これ、絶対、おもしろいから、読んでみてください」と言って2センチほどの厚みのある1冊の文庫本を差し出した。彼は、「保坂和志、知ってますよね。もうね、僕、大好きで。文章とか世界とかすっごく影響を受けてるんですよ」とかなんとか早口気味に言ったかと思うと、手に持っていたビールか何かの入った紙コップをさっと口に運んだ。『プレーンソング/草の上の朝食』とタイトルの付いたその文庫の表紙には、高いところから地面に向かって飛び降りるミケ猫のイラストがコマ送りで描かれていて、瞬間に私はゴメス・ザ・ヒットマンのファースト・フル・アルバム『weekend』に入っている「猫のいた暮らし」という曲を思いだしていた。おまけに山田くんが、「僕、猫が好きなんですよ。で、このヒトの本って猫が結構出てくるんですよね」と言うので、そのわずか2日ほど前に、同じ下北沢のこちらは駅からほど近いライブ・ハウスで見たばかりのゴメス・ザ・ヒットマンのステージが、お酒と音楽の大音量でスパークしかかっていた私の頭に鮮やかによみがえってきた。その時のライブはめずらしく3人だけで行われていた。キーボードとアコーディオンを器用にあやつる堀越和子さんと、ドラム・セットに隠れるようにしてパーカッションをゆさぶる高橋結子さんを左右にしたがえた山田くんは、いわゆる両手に花状態で、でも女性に囲まれた違和感などまったく感じさせずに、アコースティック・セットながらも例によって咽の奥まで見えるくらい大きな口をあけて、息をつく間もないほど懸命に歌っていた。そんなその日のステージで、私が一番印象に残った曲が「猫のいた暮らし」だったのだ。あまりに一気にすべてのことがらが一つに結びついたものだから私は思わず嬉しくなって振り返ったのだけど、気がつくと山田くんはクラブの大音量にまぎれてもう隣の誰かと話をしていた。

 山田くんの書く曲には1日から1週間へ、そして1ヶ月から1年へと移りゆく連続性がある。それは、たんたんとした風景描写でも一文の長さで日常のリズム感を持たせる保坂和志の小説を思わすような、ブレスなしに早口で一気に歌い切るそのスピードによるものだったり、季節の匂いを感じさせる言葉のチョイスによるものだったりするのだけれど、そうした日常の連続性を何か一つの物語りにできないものかしらと、実はちょっと思っていた。“眩しい季節のレポートを書き付けたストーリー”(「ストロボ」)と歌うくらいなら、本当に大きな時間軸をもったストーリーをその音と言葉で書き付けてくれなきゃ。そう山田くんに言おうとした時には、彼はもう狭いクラブの中のダンス・フロアをはさんだ遠くのシートに座って女の子となにやら楽しそうに話をしていた。

 ゴメス・ザ・ヒットマンに、今後1年をかけて架空の新しい街を作ることをテーマに、その街で起こる“僕”“君”“彼”“彼女”のストーリーを長編小説風に作品にしていく予定があると知ったのは、それからすぐのことだった。あのクラブ以来、山田くんには会っていない。いや、一度だけ新宿の歌舞伎町に移転したばかりの老舗ロック系のライブ・ハウスでチラリと会ったが、その時にもそんな話はしなかった。だから、私がそんなことを感じていたから急にそういう物語り風のアイディアをとりいれてくれたというわけではないのだけれど、なんとなく、誰にも言えないくらいになんとなく嬉しくなった私は、「山田くん、同じことを考えていたよ」と彼あてのEメールを書いてみたが、うっかりアドレスを聞いてなかったので送信することなくそのまま消去しなければならなかった。

 ここに届いた『new atlas e.p.』はその新たな街を彩るストーリーの第一章になるのだという。なんでも、「僕たちのニューアトラス」「街をゆく」「北風ロック」「夜に静かな独り言」という収録のこの4曲で、まずはその街の地図を作っているのだそうだが、ここに描かれた街は、どうやら雪が舞い上がり北風の吹く冬の景色のようだ。冬にスタートする物語りはそれこそ冬空にまたたく星の数ほどあるけれど、山田くんは、ゴメス・ザ・ヒットマンは、このまだ寒い冬の景色に覆われた真新しいストーリーをこれからどう紐解いていくのだろう。『weekend』とは一味違ったピンと背筋がのびるようなキメ細かいギター・サウンドに触れながら、私は今、あの日大音量のクラブで文庫本をくれた山田くんが実はミュージシャン以上にソングライター以上にストーリー・テラーだったことに一人納得している。

 ゴメス・ザ・ヒットマンは、この『new atlas e.p.』からストーリーを綴りそして語っていくのだ。それが、山田くんにとって“ネオアコを語る”ことになるのか。次回会った時に、ちゃんと逃げないようにつかまえて聞いてみようと思った。

1999年10月 岡村詩野
Thank you for Mr.Hosaka



15年のコントラスト。先週愛猫ポチが亡くなってから僕は頓挫していた保坂和志の「未明の闘争」というタフな本に再び向き合いはじめたところだった。「猫のいた暮らし」はこないだの武蔵小山でもいろんな思いを巡らせながら歌ったし、当然週末のライブでも歌うことになります。15年前に詩野さんにこの文章を書いてもらったときに、保坂和志の名前を出してくれて嬉しかったのだけど、それ以上にニンマリして感心したのは詩野さんが普段の文章スタイルではなく完璧に“保坂流”な語り口でこの長い手紙のようなライナーを書いてくれたことでした。明日の京都はなんだかとてもいい夜になりそうな気がします。もしも屋はご飯がとても美味しいとのこと、ぜひおなかをすかせて遊びにきてください。京都ならではの選曲も用意しました。15年目の“週末”の夜をとても楽しみにしています。



2014年6月27日(金)京都 もしも屋
山田稔明 X 岡村詩野:15年目の“週末”〜weekend 夜話

19:30開場20:00開演/予約2000円(ドリンク代別途)
出演:山田稔明(GOMES THE HITMAN)、岡村詩野(音楽ライター)

GOMES THE HITMAN『weekend』リリースから今夏で15周年を
記念してデビュー当時から交流深い音楽ライター岡村詩野さんと
ともに15年を振り返ります。思い出話やここだけの話、そしてこれから。
山田稔明ミニライブにもご期待ください。美味しいご飯を食べながらの
15年目の“週末”、金曜日の夜は京都もしも屋で合流しましょう。

山田稔明オフィシャルサイトRESERVEにて予約受付中

京都 もしも屋
京都市下京区五条上がる西橋詰町771-1
17:00-23:00(毎週月曜定休)
TEL 075-748-1181

Posted by monolog at 19:50│Comments(0)TrackBack(0)

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