2014年08月21日

高野寛『TRIO』/V.A.『高野寛ソングブック tribute to HIROSHI TAKANO』



高野寛さんのニューアルバムを最初に聴いたのは13年一緒に暮らした愛猫ポチのお葬式の翌日だった。1曲目は「Dog Year, Good Year」という歌で、これは今年3月蔵前NAOT TOKYOでのライブでの共演時に僕がどれだけ自分のうちの猫が可愛いかというMCをしたことを受けて高野さんが「さっき山田くんは猫の話してましたけど、僕には犬の歌があって…」と演奏された曲。僕の脳内では「犬」という言葉が全部「猫」に変換されて鳴って、得も言われぬ感情になって夕暮れの外苑西通りを走ったことを昨日のことのように憶えている。3月の共演ライブでとても印象的だったのはアコギのシールドを抜きマイクも通さずに本編最後に歌われた1988年発表のデビュー曲、その「See You Again」がRIO ver.として収録されているが時を越えて2014年に瑞々しく響くのは言葉とメロディの強靭さの証明である。

この新作『TRIO』はブラジルはリオデジャネイロに3週間滞在して作られたアルバム。前述した3月の蔵前でのライブと翌日の池袋、東京芸術劇場での演奏はリオ以前最後の、リオ直前の高野さんの姿であり、なぜブラジルへ録音に行くかという理由を直接高野さんの言葉で聞けたのはとても幸運だったし、だから作品の完成をとても楽しみにしていたのです。果たして完成して発表された『TRIO』は、乾いた風に舞い上がる埃とうっすらにじむ汗、時折降る通り雨に冷まされる路上の風景などが次々と浮かび上がるような、とても“natural”な、そして決して“neutral”ではない“record”となって届きました。僕もあと10年経ったときにこんな作品を作れたらいいな。僕はサンフランシスコで録音したい。

そして本作のプロデューサーであるモレーノ・ヴェローゾの14年ぶりのリーダーアルバム『コイザ・ボア』もようやく手に入れて聴いた。高野さんも4曲に参加しているが、一聴して『TRIO』との通奏低音のようなもの(文字通り、特に低音の鳴り方とか)を発見して、この2枚が地続きの作品なのだなと納得。ミルブックスから出版された高野さんの「RIO」もあわせて目と耳で地球の裏側を想うのもいい。モレーノのこの1枚が終わったら、また『TRIO』に差し替えて1曲目が鳴り始める。僕の耳には「猫みたいな目で/猫みたいな声で」「笑ってる/君が/いまも/笑ってる/君が」と届く。



そして同時に発売になった『高野寛ソングブック TRIBUTE TO HIROSHI TAKANO』、どこを再生しても素晴らしい。25年かけて書き溜められた耐久性のある言葉とメロディが自由に踊っている。僕は「夜の海を走って月を見た」という曲で参加させていただいたが、原曲のテンポをなるべく落とさないように心がけて取りかかりました。最初のデモには僕のギターと歌、シンプルなドラムが入っていたが、それにイトケンさんがクリックノイズみたいなビートとトイピアノを数種ダビングして送り返してきた。バンドのギタリストである安宅浩司くんに来てもらってアコギを弾いてもらったが彼は時間をかけてかなり緻密なアルペジオとスライドギターも残してくれたのでこの時点で僕は自分のギターをすべてカット(こんなことは初めてだ)。翌日sugarbeans佐藤友亮くんに来てもらってシンセを重ねてもらう。「東京湾に灯台があって、それがサーチライトみたいに照らす感じの、ホワーンっていう音」とか言いながら。そしてアウトロに水を得た魚のような笛の音が聴きたくなったので上野洋くんにフルートをダビングしてもらった。この時点で音像は芳醇で、ベースの音は必要ないと判断。前もって録音してあった思い入れたっぷりのカポウさんのコーラスを重ねると、あとはもう僕は真っすぐに素直に言葉とメロディを歌えばいいだけでした。素晴らしいミュージシャンの皆さんのなかに参加させてもらってとても嬉しいです。

今週末8月23日(土)はタワーレコード渋谷でインストアライブです。世界でも有数のレコードショップ、高野寛『TRIO』も『高野寛ソングブック』もモレーノの『コイザ・ボア』でもなんでも揃っていると思いますので、ぜひじっくりとCD棚に指を伝わせていろいろ探してみてください。音楽はいつの時代も日々の暮らしを色鮮やかに演出してくれるものです。観覧無料、13時半から。お昼すぎに渋谷に来たら週末の50時間をとても有意義に使えると思います。


2014年8月23日(土)@ タワーレコード渋谷店3Fイベントスペース
『緑の時代』発売記念インストアライブ

13:30スタート/観覧無料
出演:山田稔明 with 佐々木真里(keyboard)
昨年に続き『緑の時代』リリースを記念したインストアライブ開催決定しました!
商品購入のイベント参加者皆様には『緑の時代』からのアウトテイクとも
言える「travelogue ep」と「ポチカード」をプレゼントします。
タワーレコード渋谷(http://tower.jp/store/event/2014/08/003023
〒150-0041東京都渋谷区神南1-22-14
終了しました。ご来場ありがとうございました。


Posted by monolog at 11:21│Comments(1)
この記事へのコメント
ラジオ夢街名曲堂で流れて初めて聞いて、2021年9月から来ました。
パイドの長門さんの「通販の発送で忙しい」のお芝居の後に山田さんが流れて笑ってしまったけれど「これはいいカバー」と仰有っていました。

高野さんと山田さんは
持ってる色の中に、鮮やかな色だけじゃなくて
夜の海の色やモノクロやセピアのも在る感じが素敵だなと思ってます
Posted by ねこ at 2021年09月20日 00:43