2015年02月24日

哀しみのシャロン|Sharon Van Etten 来日公演



昨日のこと、アメリカニュージャージー州出身のシンガーソングライター、シャロン・ヴァン・エッテンのライブを観てきた。日本ではビルボードライブ東京での一夜限りのステージだったので弾き語りか小編成だと思っていたら、オーストラリアへ行く前のワールドツアーの行程、Youtubeなどでよく観た5人編成のバンドでの演奏で、個人的な予想をはるかに上回る素晴らしさだった。数年前に『Tramp』というアルバムをジャケ買いして(アナログ盤のサイズがいい)その深淵を覗きこませるような雰囲気が妙に気になって、ターンテーブルにのせる機会も多かったのでとても楽しみにしていた来日。

シャロン本人が自分の音楽を「Sad Prairie Folk Music(悲しい大草原のフォーク音楽)」と説明するように、演奏される静謐な曲にも激しい曲にも弾き語りにも滲みだす憂いと哀しみがあるが、彼女がステージに登場したときに僕の口をついて出たのは「か、かわいい…」という感想で、その可憐な佇まいを眺めながら聴く歌はレコードよりも何倍も心に響いた。曲間のMCで見せる子供っぽさや真摯に感謝を述べる姿、オムニコードを魔法のように操ったり、フェンダージャガーをカリンカリンと鳴らす姿は「メランコリックなアコースティックシンガー」以上の何者かであった。素晴らしい時間を過ごした。心底感動した。

偶然同席した音楽ライターの赤尾美香さんから3月に公開される映画「ブルックリンの恋人たち」にシャロン・ヴァン・エッテンのライブシーンが登場すると聞き俄然興味がわいた。僕が数年ずっと熱心に観ている「ウォーキング・デッド」(ゾンビのやつね)のシーズン4のキャロルがチームを離れる別れのシーンで不意に彼女の歌が流れてきたときは世紀末のサウンドトラックのようで息が止まるかと思うほどハッとしたし、そのモノトーンの雰囲気は映像作品とも相性がいいのかもしれない。雨降りで光の粒が乱反射していつもより近未来的に見える東京ミッドタウンで“Sad Prairie Folk Music”に打ちのめされたが、帰り道ではきれいな下弦の月が見えて気分がよかった。世界は悲しみのうえで成り立っているということか。




Posted by monolog at 11:08│Comments(0)TrackBack(0)

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