2015年06月24日

今宵必要なのは愛と慈悲|映画「ラブ&マーシー 終わらないメロディ」」



昨日のこと。8月1日から公開される映画「ラブ&マーシー 終わらないメロディ」を一足早く試写で観させていただいた。ビーチボーイズのブライアン・ウィルソンの60年代と80年代をパラレルに描くライフストーリー。映画の中で繰り広げられるのは歴史や伝説に追いつこうとして様々な本をむさぼるように読んだ音楽ファン(僕のような)にはよく知られた事実たちだけれども、そこにリアルな映像と芳醇なステレオサウンドが絡むとまるで第三の眼となり時空を軽々と越えていく感覚があった。1960年代のブライアンを演じたポール・ダノはとにかくブライアンにそっくりで才気溢れ、いっぽう80年代を担ったジョン・キューザック(!)からにじむ混乱と葛藤は隠遁時代のブライアンの姿を想像させた。そしてもうひとつ、書籍「ビーチ・ボーイズとカリフォルニア文化」を読んで想像するしかなかった精神科医ユージン・ランディの姿がとても印象的だった(彼が70年代に編纂した「アメリカ俗語辞典」のことも触れられて興味深かった。英語が好きな僕に、と中学生のころ親戚から譲り受けた辞書なのである)。

僕は《グッド・ヴァイブレーション・ボックス》《ペット・サウンズ・セッション》でビーチ・ボーイズを“発見”した世代のリスナーだが、想像の範囲を越えた風景を補完するのにあまりある内容で、映画を観ているそばから早く家のステレオでビーチ・ボーイズを聴きたいと思ったし、熱心に聴いていないブライアンのソロ作にも改めて触れてみようという気持ちになった。実際1988年リリースの初のソロアルバム『BRIAN WILSON』をターンテーブルに乗せるこれまでと違う印象で響き、孤独と暴力、テレビのニュースに落胆して「今夜僕らに必要なのは愛と慈悲だ」と歌う「Love and Mercy」のガラス細工のような美しさに感動した。あと何回か暑い夏の日に映画館で観たい。


ビーチ・ボーイズ関連テキスト
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Posted by monolog at 10:26│Comments(0)TrackBack(0)

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