去年からわが家に定期的に訪れる野良猫がいる。どうやらポチ実のお母さんらしいということが判明、チミママという名前を付けて観察していた。猫の親子の関係というのをインターネット上で調べてみると、生まれて3ヶ月ほど経って親離れ/子離れすると「自分が誰の子か」「誰が自分の子か」というのを忘れてしまう、というのが定説のようですが、塀の上でじっとポチ実を見つめるチミママ、「ウウウ」と静かに唸りながらもチミママの姿を追うポチ実の姿を見ているとそこには僕らにはわからないコミュニケーションが存在するのではないか、と思わずにはいられないのでした。
そんなチミママが春になってどうやらまた赤ちゃんを身篭っているみたいだ、ということになって長いこと姿を見ないと心配になって、かと言ってもうちの庭に現れてもどうしてあげることもできないでいた。チミママとその子ども2匹を最初に発見したのは近藤研二さんで、近藤さんはうちに何かを返却しに来る途中で小さな猫の影に気づき、僕もすぐに駆けつけた。生後2ヶ月くらいだろうか、2匹の仔猫はかわいいキジ柄で、ぴょんぴょん跳ねて可愛い。チミママは鋭い眼光で僕らを睨みつける。仔猫にそれぞれ「チッチ」と「ミンミ」と名づけて(勝手だな、人間は)それから毎日気になって猫を見に通ったのだけど、ある日からぱったり姿が見えなくなった。
「チミママとチッチとミンミがいる場所がわかりました!」と連絡をくれたのはむさしの地域猫の会のスタッフの方だった。僕のインスタグラムを見て気になって、情報網を駆使して突き止めたのだ(猫ネットワークってすごいのだ)。そしてなんとチミママ親子が居場所を移した先は去年の猫騒動で尋ね猫「チミオ」の貼り紙がきっかけで知り合った一本向こうの筋に住むAさん宅の庭だった!僕は近藤さんと連れ立って猫のエサとかおやつとかを紙袋いっぱい用意してAさん宅を訪ねた。Aさんは不在だったのだけど、お母様が出てくるなり「これは、チミちゃんところの山田さん!こちらはモイちゃんのパパ!」と僕らのことをご存知だった。ここ数日の様子をお聞きして、チミママたちにあげるためのフードやおやつをお渡しした。結局むさしの地域猫の会の方と相談して、仔猫たちは保護して里親探し、チミママは不妊手術を施してもとの場所に戻し地域猫として人生を送ってもらう、ということに。捕物帳の舞台はAさんのお庭ということになる。
それから数日後にメールが届き、親子とも無事に保護して病院で診てもらったとの連絡。仔猫たちは病気もなく健康で、チミママは不妊手術を受けて数日静養した後元いたところに戻した、とのことだった。チミママは「元気に駆けていった」そうだ。ポチ実の弟妹のチッチとミンミはこれからむさしの地域猫の会が主催する譲渡会で家族を探すことになるのだろう。その後届いたAさんからのメールには「1週間ほどでしたが微笑ましい姿を楽しませてもらいました。仔猫たちの可愛らしさはもちろん、チミママは小顔美人で、時に仔猫のように一緒に戯れたり、がまんしきれずに先にご飯を食べてしまったり、でも人の姿を見ると激しく威嚇して母性を発揮していました。仔猫たちを呼ぶ声の何と優しかったことか。」とあり、捕らえられて仔猫から引き離されたチミママの気持ちを思うとつらく哀しく、むさしの地域猫の会の会長さんからも「この子たちにとっての幸せはなんだろう?これで本当にいいのかな?と自問自答しながらも、それでも外で暮らす猫たちの過酷な環境や病気になったり怪我をしたときのどうしようもなさを見るたびにやっぱりできるだけ保護するべきなんだと思いなおします」と逡巡するメールをいただいた。
チッチとミンミが優しい飼い主にもらわれますように。そしてこの長雨が早くあがって、またいつもみたいにチミママが長い尻尾をひらりと揺らして塀づたいにあらわれてくれないか、と思う。長い手足と小さな顔の美しいお母さん。ポチ実もチミママが来るとシュッと背筋が伸びる。左耳に地域猫の示すカットが入ったチミママよ、こんな不確かな日々を思うとき、嫌なことから忘れていけたならいいね。美味しいものをあげる準備はできている。