僕は「ああ、図書館でのイベントは中止だろうな・・・」と思ったのだけど、朝8時に「予定通り開催する」という連絡が来た。「しかし、お祭り騒ぎみたいな歌は謹んでほしい」という町長からのお達しが届いたが、安心してください、そういう歌は僕のレパートリーにはそんなにありません。基山町立図書館に行くのは2度目、前回はまだオープンする前だった。この日のトークの相手、漫画「キングダム」作者の原泰久先生。同郷で僕の高校の2年後輩でもある原くんとはこの日が初対面。高校の校舎ですれ違っていたかもしれないけど。ほとんど打ち合わせらしい打ち合わせもなかったが、司会進行をふたりの共通の幼なじみである“みっちゃん”がやるというので「まあ、大丈夫でしょう」とニコニコといい雰囲気。



果たしてイベントスタートの時間になって館内を眺めると満席、立ち見も出るほどの大盛況。地元の方もいれば遠方から来られた人もいただろう。地震の影響で道路や電車が不通のなか、これだけたくさんの方たちとこのイベントを共有できたことがとても嬉しかった。トークは図書館に因んで影響を受けた本の紹介から。僕は初めての読書体験である村上春樹「ノルウェイの森」と英語を学ぶための大学進学を決心させた藤原新也著「アメリカ」、原くんは江戸川乱歩「怪人20面相」やスティーブン・キング、司馬遼太郎の本について語った。地元中学校と僕らの母校である高校の生徒からの質問に答えたり、会場からの質問に答えたりしていたらあっという間に1時間が過ぎた。地元ならではの話も多く、充実した内容だったと思う。
そして僕のライブ。客席には母親や叔母やいとこがいたり、何十年ぶりに顔を見る旧友がいたりした。この日はセットリストを決めないでその場の雰囲気で選曲しようと思ったのだけど「ブックエンドのテーマ」を特別な感慨を抱きながら歌った。老若男女、皆さんがとても熱心に聴いてくださった。原くんが客席で聴いてくれたのも嬉しかった。「tsubomi」には「いつもの合図は校舎に落ちる夕焼けの光だったのに」というフレーズが出てくるがこれは思春期に過ごしたこの町にある学び舎のイメージだ。25年経ってこの場所で歌うなんて僕には想像もつかなかった。音響を担当してくれた緒方さんも確かな腕を持つとても良い方で、気持ち良く歌うことができました。

終演後、ライブの最中に揺れたことや緊急地震速報が鳴ったことを聞かされた。このタイミングでイベントを開催することには賛否があると思うが、僕は楽しみにしていたこの空間が実現したことで勇気づけられて元気になった。ご来場いただいた皆さんの気分が少しでも上向きになっていたらいいなと思う。この日は駐車場の整理誘導やご来場者のケアなど屋外で駆けまわってくださって館内イベントの様子を見られなかったスタッフの方がたくさんいらっしゃったので、夜の打ち上げ会場で僕は2曲歌った。
打ち上げには基山町長や高校の理事長も参加されて、たくさんの話ができた。「絶対今日のイベントは中止になると思いました」という僕に町長が「不謹慎だって言う人がいても、私が怒られて責任取ればいいから」と笑っておっしゃったのが印象的だった(この日は急遽チャリティイベントとしてご来場の方に熊本への義援金を募りました)。様々な記憶が渦巻いて、前夜の地震のこともあり、なんだか夢のようなふわふわした感覚のなかでしみじみと夜が更けていったのです。寝不足のせいか、大きな地震が押し寄せなかったからか、この日は死んだようにぐっすりと朝まで眠った。
ご来場いただいた皆さん、原くん、一番の立役者のみっちゃん、本当にありがとうございました。



