2017年03月14日

NAOT TOKYO三周年記念LIVE〈高野寛×山田稔明×高橋久美子〉(2017年3月12日 @ 蔵前 NAOT)【ライブ後記】

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先週末のこと。昨年末からずっと楽しみにしていた蔵前NAOT TOKYOでのアニバーサリーライブ。もう今年で4回目、早春の恒例行事になってきた。この日の東京はよく晴れて、NAOTの窓から眺める隅田川もスカイツリーもすっきりと青空に映えていました。高橋久美子ちゃんとは彼女の「新春みかんの会」以来、高野寛さんとは昨年の広島世羅、そして先日の吉祥寺キチムでのトークイベント以来なので「やあやあ」という感じで穏やかにいつものように会場準備。このイベントにはいつも「あんまり事前練習をしないでおこう」という暗黙の了解がある。<happenstance=ハプンスタンス>という言葉があるが、僕がいつもNAOT TOKYOのライブで思い浮かべるのはその単語、<偶発事態>という意味だ。

そのような理由で、サウンドチェックが終わったらのんびりと隅田川を眺めながら、おにぎりを食べながら様々な会話。「今日は高野さんと小沢健二新作について話したくて」という僕に高野さんも「いいね」と前のめり、僕も高野さんも久美子ちゃんもそこにいたスタッフもみんなCDを買っている。そんなことってなかなかない。3.11についての話もしみじみと。3月は知らぬ間に、僕にとって蔵前NAOTライブと東日本大震災再考の季節になっている。和やかな歓談のなかあっという間に開場時間。今年も満員御礼。まず高橋久美子ちゃんの朗読のステージから。パーカッションやグロッケン、iPadからのSEが彼女の言葉の世界を広げる。人懐っこい語り口も天性のものだなと思う。風邪で喉を痛めて開演前はほとんどしゃべれなかったのに本番にはちゃんと声が出ていて、流石と感心。

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彼女がパーソナリティを務めるNHKラジオ第一の「ごごラジ!」でリスナーからの言葉を集めてまとめたという「春」という詩をふたりで一緒に演奏。「ラップみたいにしたいんです」という提案からリズムループとギターを添えたが、とても面白いセッションになったと思う。実はリハーサルでは高野さんが即興のギターで切り込んできて魔法みたいなシーンがあったのだけど、もったいぶって来年まで持ち越すことに。高野さんとの「夏」をテーマにした朗読セッションも通りすがりの犬が絶妙なタイミングで吠えた。まさに<happenstance=ハプンスタンス>である。

僕は「my favorite things」から演奏開始。もともとこの歌は徳島の14g開店に際して作った歌。好きな人との繋がりは音楽に昇華する。前日が3月11日だったのでいろんなことを考えながら、震災がきっかけで知り合ったファン“気仙沼くん”とのメールのやりとりを読み返した。市役所の復興課で働く彼のアドレスは「newatlas@…」と始まる。まちづくりのプロローグである「僕たちのニューアトラス」を歌うのに相応しい季節だと思った。「GOLDEN 8」(2004年『明日は今日と同じ未来』のカップリング曲)も春の歌だ。去る者と送る者との対比を書いた歌だけど、昔と違う印象を僕が抱いたのは前日に読み始めたばかりの『魂でもいいからそばにいて』の影響だったか。「notebook song」はNAOTとも縁の深い中目黒トラベラーズファクトリーのために書いた歌。そして「小さな巣をつくるように暮らすこと」も店主宮川夫妻と仲のいい等々力の家具と雑貨のお店 巣巣のための歌。いろんなお店からいい刺激を受けている。

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僕のステージラストは高野さんを呼び込んで「太陽と満月」をセッション。奈良NAOTの姉妹店 風の栖で初めて披露した曲、蔵前NAOTオープニングライブで初めて高野さんにギターを弾いていただいて、その後のレコーディングに至った象徴的な歌。高野さんと初めてNAOTでやったのが2014年、そのライブの直後に高野さんはブラジルにアルバム制作に行ったのでした。あっという間のようで、遠い昔のようにも感じる。時間の流れがよくわからなくなる。

高野さんのステージも素晴らしいものでした。絶妙の歌を披露してくれた犬の話から「Dog Year, Good Year」。「Portrait」という新曲も新鮮だった。『MEMORANDUM』という会場限定のアーカイブス集から歌われた「停留所まで」も好きな曲だったので嬉しかった。思えば1年前に過去のアーカイブスを音源にすることについて高野さんと話して覚悟ができて本気で取り組んだのが『pale/みずいろの時代』だったのだ。最後、PAを通さない生音で演奏された「確かな光」に心が震える。大好きな歌。恐れ多くも自分の「光の葡萄」は光の色味において通奏低音を共有していると感じている。6年目の3.11を過ぎても、真摯に響く言葉を紡ぎたいと思いました。

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最後は3人のセッション。久美子ちゃんがNAOTのカタログのために書き下ろした詩に、僕が曲をつけた「わたしのドライバー」。これまで奈良NAOTで2度演奏しましたが、東京で初めてお披露目。お客さんも大きな声でコーラスを手伝ってくれて嬉しかった。久美子ちゃんのチャーミングな言葉を見ると、やはり自分の詩作とは違う個性があって面白い。絶対にひとりでは作れない歌、今回は高野さんにアルペジオを重ねてもらってどんどん曲が大きくなっていく感じがしました。「ララララ」が「奈良奈良」に変化していった「わたしのドライバー」、それを受けてなんと高野さんの名曲「夢の中で会えるでしょう」も「ナララララ」バージョンに(そう言えばこの曲リハーサルなしだった)。会場全体がニコニコと陽性のヴァイブレーションに満ちていました。

打ち上げではまた小沢健二「流動体について」について熱い議論の続き。1993年に『犬は吠えるがキャラバンは進む』に出会って、所謂“小沢文法”から学んで日本語詞の歌を書きはじめた僕は新曲のコード進行を聴き取って弾き語ってみたうえでの雑感と検証、高野さんはTwitterにも書かれていた「童顔でパブリックイメージがさわやかな歌手がどうやって40代から50代へシフトするか」という見地に立っての意見の続きを。久美子ちゃんはリアルタイムのリスナーではない立場からの感想など、みんなそれぞれ語るべき想いを持っているのが興味深かった。NAOT宮川さんの「シンゴジラならぬシンオザケン」論にみんな唸ったりしながら。気づいたら真夜中近く。一日中ずっと楽しい日でした。また来年。



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Posted by monolog at 12:08│Comments(0)TrackBack(0)

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