2017年04月15日

永井宏作品展 la musique sur l'elephant LIVE「音楽で表現すること」(2017年4月8日 @ 等々力 巣巣)【ライブ後記 その3】

カーネーション直枝さんとヒックスヴィル中森さんと僕の「EDO RIVER」セッションでロックした巣巣、いよいよスペシャルゲストの片桐はいりさんをステージへ呼び込みます。はいりさんが登場するとぐっと息を飲む客席、やっぱり空気がパッと変わる感じがしましたね。そもそもなぜ巣巣にはいりさんが?というストーリーと(ライブ後記その1に書きました)、永井さんとの思い出話を伺う。永井さんはかつてマガジンハウスの雑誌『BRUTUS』の編集者だったのだけど、劇団の広報も担当したはいりさんは演劇の記事を書いてもらうためマガジンハウスに出入りするようになり、そこで永井さんや中川五郎さんと知り合い、可愛がられ、バンド活動にも参加するようになったそうだ(中森さんはまさにそのBRUTUS時代の永井さんのもとでカメラマンとして仕事をしていた)。きっと永井さんもその交流のさなかに「イッツ・オールライトやで!」を目撃したのだろう。

永井さんと中川五郎さんとの対談で構成された『友人のような音楽』という本があり、そのなかで20th Century'sというバンドのことが語られている。はいりさんはこの本の存在をご存知なかったのだけど、そこには当時のバンド活動の様子が記されている。

ー片桐はいりさんとかもゲストで出てたとか。
永井 彼女は千景ちゃんと同じ劇団で、たいていライブの半ばくらいにゲストで出てきてもらって「ローハイド」とか(笑)「ハロー・アイ・ラヴ・ユー」とか歌ってた(笑)。
中川 当時から人気あったよね。「ローハイド」は彼女が自分でやりたがったんだ(笑)。
永井 「ハロー・アイ・ラヴ・ユー」はイントロをずっと続けて演奏していて、しばらくして、袖からぬっと出てくると、演奏がブレイクして、瞬間、「こんにちは、片桐はいりです」って挨拶して、フル・スピードで一気に歌い出すんです(笑)。
『友人のような音楽』中川五郎/永井宏 より引用

ということで、ステージ上では、はいりさんをメインボーカルにして4人で演奏することになった。まずその「ローハイド」から。アメリカドラマの主題歌だがブルースブラザーズが有名にした歌、はいりさんたちの打ち上げでの定番曲だったそうだ。自然に手拍子が鳴り出して、「ローハイド!」と締めくくる声で会場中が笑顔になった。続いてTHE DOORSの「ハロー・アイ・ラブ・ユー」、はいりさんは右手、左手と振り上げてジム・モリソンが降りてきたみたい。僕と直枝さんもコーラスを添え、中森さんのオブリガートも超クール。なんでぶっつけ本番でこんなふうにグルーヴしていくんだろうか。なんだかすごい時間と場所にいるなあとドキドキする。永井さんもきっと笑いながら眺めている。

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そして、ディランの「くよくよするなよ」の話。はいりさんの「イッツ・オールライトやで」をいたく気に入った永井さんはことあるごとにはいりさんに「あれ、歌わせてもらうから」と連絡をしてきたそう。永井さんの歌った「くよくよするなよ」ははいりさんの決め台詞となった最後の一節以外はすべて永井さんの言葉になった。この日は1番をはいりさん、2番が僕で、3番を直枝さんが担当。そして最後の4番ではいりさんに戻って、永井さんバージョンにはない5番が付け加えられたのだけど、その5番ははいりさんが考えてきたオリジナルの「くよくよするなよ」だった。

昨日桜の花を見ながら思った
死んだら終わりじゃないんだって
心臓が動いていてそこにいるってことだけが
一番じゃないんだって

たった今 僕がこの世界から消えて
消しゴムに生まれ変わったとしても
そう 君ならなんとかできる
だからくよくよしないで
イッツオールライトやで
(片桐はいり)

はいりさんが最後に「死んだ人はすごい」と、これだけかいつまむと語弊があるような言葉を述べられたのだけど、会場にいてこの日のライブを体験したみんなはきっと大きく頷いたのではないか、と思う。僕は永井さんに会うことが叶わなかった、間に合わなかったのだけど、もう永井さんのことをよく知っているような気分になっている。毎年毎年新しい出会いや新しい知識を永井さんを通して獲得しているのだから、「いなくなっても、いる」という確かな感覚がある。この日永井さんのことを知らずにライブを観にきた人が永井さんの本を一冊買って帰って読むことでまた新しい感情が芽生えて、それがだれかに伝わっていったり、全部のことが大きな流れになるのだな、としみじみと思った夜でした。

終演後の打ち上げもたくさんの人がそこかしこでいろんな話をしていて、巣巣っていう場所の磁場に改めて感心する。はいりさんもとても楽しそうに見えたし、みんなが一瞬一瞬を噛み締めている感じがした。永井さんの奥様、南里さんからもいろんな話が聞けた。永井さんは僕の大好きなR.E.M.を初期の頃から積極的に日本に紹介した方で、僕が大ファンであることを知っている南里さんは永井さんの遺品のなかから毎回ひとつずつR.E.M.に関するお宝を僕に授けてくれるのですが、この日は1986年のR.E.M.のアーティスト写真紙焼き、そして永井さん手書きのR.E.M.のライブ評生原稿を持ってきてくれた。R.E.M.のなかでも極めてドアーズ的な歌が詰まった『GREEN』時代のものだったのも数奇な符号の一致。南里さんと別れ際に握手しようと手を出したら「今日はハグしましょう」と言ってくれたのも嬉しかった。永井さんにまつわるものごとはとにかくいろいろロマンティックだ。

全部が終わって、岩崎さんは呆けたような顔をして、しかしとても幸せそうだった。また来年もこういうことができたらいいなあと思う。草とテン・シューズのみんな、直枝さん、中森さん、そしてはいりさん、南里さん、関係者の皆さん、友人たち、ご来場いただいたたくさんのお客さんに大きな感謝を。そしてなによりすべての点、点、点を力強い線で繋ぐような永井宏さんの“存在”に心からありがとうと言いたい。ずっとこの日のことを忘れないだろうと思います。

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Posted by monolog at 12:18│Comments(0)TrackBack(0)

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