
本当なら去年の秋に受けるはずだった3種混合ワクチンを、飼い主の忙しさにかまけて伸ばし伸ばしにしていたら季節がふたつ過ぎてしまった。久しぶりに晴れた窓際で気持ちよく寝ているポチ実をヒシっと捕まえてキャリーバッグに詰め込んで出かけた。ガクガク震えながら「ウォーン」と鳴く声が1年前より力強い。かかりつけの動物病院に着くとちょうど院長のダライラマ先生がいらっしゃって「おっ、山田さん久しぶりだな」「わー先生!ご無沙汰してます」と挨拶を交わす。
このダライラマ先生は小説『猫と五つ目の季節』にも登場する、先代のポチからお世話になっている先生で、ダライラマ先生というあだ名は僕がつけた。怖いような優しいような、慈悲深い顔をされているのだ(もちろんその名前で呼びかけたことは、ない)。ポチがいなくなったあと庭に現れたポチ実を保護したときも一番に診てもらった。「ポチにそっくりじゃない!」といつも厳しい顔に笑顔がこぼれたときのことを忘れない。久しぶりに診察台のうえでカチコチに緊張しながらダライラマ先生に触診され、目、耳、歯と異常がないかちょっと手荒く診断を受けるポチ実を見ながら、僕は少し感慨深くなる。同じように緑色の診察台の上で一点を見つめて騒がなかったポチのこともちゃんと思いだす。
ポチ実は今3歳で、元気の盛り。来月4歳になる。体の不調らしきところはひとつもないが、血液検査までやってもらう。お金と手間がかかるがポチ実にはずっと長生きしてもらいたいから、健康問題についてはもう手を抜かないことにした。去年同様「運動不足」「食べ過ぎ」とは言われたけれど、検査の結果は概ね問題なくて安心した。ブルブル震えるポチ実の両手足を羽交い締めにしながら看護婦さんが「ポチ実ちゃんってかわいい顔」と呟くのを聞いて、この場に似合わない言葉だなと思いつつも「そうなんです、毎日可愛いんですよ」と応えて笑った。待合室で会計を待つ間に押し黙って深刻な表情の飼い主さんが2人診察室に呼ばれた。4年前の僕もきっと同じ顔をしていただろう。
健やかに元気で、ずっと穏やかな日が続くといいな、と心から願う。




