2018年07月29日

『mono』を回想する・後編【00-ism】

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前編に続けてお読みください。2002年リリースの『mono』を回想します。

『mono』に収められた楽曲のうちのいくつかは「饒舌スタッカート」をリードシングルとする“来たるべきニューアルバム”のために書かれたものだった。「夜明けまで」「笑う人」、そして「情熱スタンダード」はタイトルからして「饒舌スタッカート」と対になっている。「夜明けまで」に(情熱スタンダード vol.1)と副題がつけられたのもそのせいだった。次作に収録されることになる「20世紀の夏の終わり」ももう完成していたし、僕らが2001年にBMG JAPANからもう1枚アルバムを出していたらどうなっていたかな、と思う。「忘れな草」で歌われる「このままこのときがあと2年も続けばなあ」の “2年” はレーベルとの2年契約を更新したかった僕の心の叫びだったかもしれない。

しかし、そのラインナップに「目に見えないもの」や「別れの歌」といった淡々と情景と心情を歌う静かな歌が加わる。「百年の孤独」はMac & Wendysという課外活動バンド(メンバーは僕、PLECTRUM高田タイスケ、セロファンの高内シロウと溝渕ケンイチロウ、そしてライターの山田ゴメスさん)でのライブのために僕が書いた曲だった。ポール・オースターの小説とソフィ・カルという芸術家の著作『本当の話』をモチーフにして書いた「言葉の海に声を沈めて」はこれまでのGOMES THE HITMAN楽曲とは異なる雰囲気の歌になった。内なる声と発せられる声、と考えたときにSmall Circle of Friendsの東 里起さんをゲストに迎えたいと思って、渋谷クアトロでのライブを観たあと出待ちをして依頼したことを忘れない。

レコーディングはまずリズムとベーシックトラックを駒場東大前のスタジオで録った。緊張感のある現場だった。僕はニコリともしなかったんじゃないかなと思う。サポートギタリストのアッキーが緩衝材のようにみんなを和ませる、というのが『mono』から『ripple』まで続くことになる。アッキーには本当に苦労をかけたと思う。細かいダビングやボーカルレコーディングは中野富士見町にある小さなスタジオで録ったので、今でもそのあたりを車で走るとあの頃の記憶が蘇る。アルバム最後を飾る「表通り」はバンドでの演奏を放棄した曲だ。この曲を録る日はメンバーが揃わなかったはず。今聴くと口笛が聞こえるのだけど、僕は今も昔も口笛をうまく吹けない。これは誰の口笛だろうか?と思い出せないでいる。当時のディレクターかな。このあたりの記憶は混沌としたまま。

最後の最後に「6PM intro」ができた。僕がハードディスクレコーダーでひとりで作ったサウンドトラックが『mono』の始まりを告げる。旋律はR.E.M.の「Perfect Circle」を下敷きにしている。このアルバムに取りかかるタイミングで僕は池袋から武蔵野へと引っ越したのだけど、「6PM intro」の始まりに聞こえるのは吉祥寺の夕刻の鐘の音だ。本当は17時の鐘の音なので五回鳴ったのをコピーペーストで一回分増やしてある。雑踏、自転車のブレーキの音、誰かの声、それは2002年のある日にうちの近所でフィールドレコーディングした素材なのだけど、それまでもそれからも、そして今でも普遍的に毎日繰り返される暮らしの音であり、このレコードはそういう普遍的な風景から幕が開くのが相応しいと思ったのだ。

『mono』というタイトルは制作終盤に僕が決めた。なんでそれまで『mono』じゃなかったのかというくらいこの作品を言い得ていた。アルバムジャケットも象徴的で、オリジナル盤はビニールカバーでくるまれた他に類を見ない装丁に。とてもストイックなものを作ったという感覚があったのだけど、僕が想像していたよりもセールスは好調だったように思う。関東で7ヶ所、関西、中部でもインストアライブを重ね、レコ発ライブは渋谷クラブクアトロにて、東 里起さんをDJとゲストボーカルに迎え、アッキーを含む5人編成で演奏した(大阪はバナナホール、名古屋はメトロ館)。『mono』の好評を受けてライブ活動にも拍車がかかり、2002年はキャリア史上においてライブ元年と呼べる年だったなと振り返る。






Posted by monolog at 22:07│Comments(3)
この記事へのコメント
このジャケットは大好きです♪(・&・)ノ

人や馬が“失楽”している、それも人や馬もかなり即物的な“造形物”であるのもなにやら象徴的ですよね…

ジャケットが内容を雄弁に語っているように思えます…

あと山田稔明による“バンド・メンバー殺し”のアルバムだとずっと考えております。

これを作ってしまったらソロになるしかない。
そのあとに二枚アルバムがでたのが逆に不思議です(笑)

とにかくすんごい傑作ですよね。

Posted by ドラム猫 at 2018年07月29日 22:23
昔々、公私ともに、ひどくしんどい時期に、
眠る前にいつも、「mono」を、かけていました。
あの頃、そばにいてくれたこのアルバムには、感謝でいっぱいです。

昔も今も、大切なひとに会いに行く時には
「ああ あのひとを むかえに行くよ」と、
いつも心の中で、歌い続けています。
Posted by naitou at 2018年07月30日 00:31
みんなも回想している感じも面白いですね。
「失楽」「バンドメンバー殺し」、パンチライン多数。
僕も誰かに会いにいくときは今でも「情熱スタンダード」を鼻歌で歌います。
Posted by ymd at 2018年07月30日 14:06