2018年08月03日

『ripple』を回想する・中編【00-ism】

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GOMES THE HITMAN2005年作品『ripple』を回想しています。前回の前編からお読みください。2回でまとまらず、今回は中編。

新しいアルバムのための楽曲がほぼ出揃ったのは2004年冬の入口頃だったろうか。ジャクソン・ブラウンの歌から発想を得て作られた歌は「星に輪ゴムを」というタイトルになった(エディ・ブリケル&ニュー・ボヘミアンズのデビュー作のタイトルを引用した)。名古屋でのライブを終えて日帰りで東名高速道路を走る家路の行程は「ドライブ」という長い歌になった。350キロ5時間の情景と心情を表すのには8分以上の尺を要した。アップテンポの曲を、ということで「サテライト」を書いた。雄弁なメロディに乗せて「(僕は)君の(まわりをただぐるぐる周回するだけの)サテライト/おなかすかせた猫みたいに」と情けない男の気持ちを吐露する歌になった。「RGB」「bluebird」「手と手、影と影」とあわせて6曲分の to doリストを抱えてバンドは本格的な制作期間に突入する。

『ripple』のレコーディングを思い出そうとしてもあんまりスタジオでのメンバー全員の姿や顔が浮かんでこない。杉並区にあるパワーハウススタジオで録っていたときにはadvantage Lucyのふたりが猫のリロを連れて遊びにきたこと、BMG時代の根城だった恵比寿のABSスタジオで久しぶりにレコーディングして月日の流れを感じたことくらいは憶えているけれど(デビュー作から5年経っていた)、バンドが膝を突き合わせて、意見をぶつけ合って、一丸となってバンドマジックを模索する、という雰囲気は希薄だったかもしれない(今思うと)。スタジオで録った素材を自宅スタジオで編集して楽曲が構築されていく。「ドライブ」「RGB」のギターソロは中野富士見町のスタジオで僕が弾いたけど、すぐそばにアッキーがいて応援してくれたことを憶えている。「星に輪ゴムを」にペダルスティールギターを入れたくて、「饒舌スタッカート」の頃にサポートしてくれていた高木克さん(現 ソウル・フラワー・ユニオン)にダビングしてもらった。

「手と手、影と影」がアルバム中で唯一メンバー4人だけで演奏したトラックだというのは興味深い。僕がどこかからサンプリングしてきたコンガのループ(ペリー・ファレルのPORNO FOR PYLOS「Meja」だったなあ…)をけっちゃんが塗り替えて、堀越さんにWilcoの「Muzzle of Bees」を聴かせてからピアノを弾いてもらった。そのときの僕の彼女への要望が「水面に音の粒が落ちて波紋が広がっていくイメージ」で、それはつまるところアルバムタイトルの『ripple』へと繋がっていく。僕がグレイトフル・デッドの曲のなかで一番好きなのが「Ripple」という曲だったのも必然的な要因だった。

グレイトフル・デッドの「Ripple」はこんなふうに歌う。

If my words did glow with the gold of sunshine/僕が書いた歌詞が黄金色の陽光で輝くなら
And my tunes were played on the harp unstrung/僕の曲が弦を張っていないハープで演奏されるとしたら
Would you hear my voice come through the music/音楽のなかから僕の声を聴き取ってくれないか?
Would you hold it near as it were your own?/そして、それがあたかも自分のものであるかのようにそばにおいてくれないか?

Ripple in still water/静かな水面に波紋が立つ
When there is no pebble tossed Nor wind to blow/小石が投げ入れられたわけでも風が吹いたわけでもないのに


イアン・ハンターが書いたこの歌詞は「音楽というのは一度奏でられると空気の中に消えてゆき、二度と取り戻すことはできない」という、ジャズ奏者エリック・ドルフィーが遺した名言と響き合っていろんなことを考えさせられる。僕がドルフィーのこの言葉を知るきっかけになったのが幻の焼酎と呼ばれる「百年の孤独」だったことは、ウソみたいな、できすぎた物語だなあと思う(「百年の孤独」のパッケージにドルフィーの言葉が印刷されているのです)。2000年代に自分が抱いていた音楽へ対する想いは「Ripple」の歌詞とエリック・ドルフィーの名言にとても影響を受けていた、と今振り返ると思う。たとえば心が目に映る答えならば…と本気で希求するし、夢から覚めるような言葉を話せたなら…と今でも変わらずに願っているわけだから'00年代に限ったことでもないのかもしれないな。

GOMES THE HITMANの新しいレコードは『ripple』というタイトルが決定し、6曲が完成。しかし、入り口も出口もない迷宮のような構成となって僕はしばし途方に暮れる。シングルを2つリリースし、病気に倒れ静養してまた立ち上がった激動の2004年は暮れて、2005年へと移ろっていく。僕は31歳になったばかりで、愛猫ポチは元気盛りの5歳だった。(続く)





Posted by monolog at 10:04│Comments(0)