『mono』における「6PM intro」、『omni』の「sound of science」のように、再生ボタンを押した瞬間に目の前の世界をパッと変えるような導入楽曲が必要だと思った僕が2005年になって書き上げた曲が水滴と秒針の音で始まる「東京午前三時」(仮タイトル「3am」)だった。『mono』のときには夜の帳だったのがずいぶん宵っ張りになったものです。この曲の歌詞から取られて「そこでずっと待ってるの?」というフレーズが本作のキャッチコピーになった。真夜中に猫に話しかける歌詞なのだけど、このままこの場所にとどまり続けるのか、という焦燥とか諦観とか様々な感情を含んで自分に跳ね返ってくる歌になった。
CM効果も手伝ってロングセラーを記録した『ripple』を携えて、GOMES THE HITMANは「ripple-ism 2005」「ripple-ism 2006」と二度のレコ発ツアーを行うことになるが、山田稔明ソロでの活動が増えるにつれてバンドでの演奏の機会が少なくなっていった。『ripple』はバンドのキャリアのなかでは最も好調なセールスを記録する作品となったが、2007年を最後にそれから7年活動休止状態となる。今振り返ると『ripple』は当時自分の作り得た最高傑作だったと思うし、それから先の目的地や目標を見失わせるのにじゅうぶんなくらい精魂を注ぎ込んだ作品だった。このアルバムがバンドの最後のレコードになる可能性だってあったはずだけれど、そうならなかったことが嬉しい。『ripple』の次のアルバムを作ることを考えると今はワクワクした気持ちしかないのだから、時間の経過というのは“魔法のようなもの”だと感じている平成最後の夏だ。