
先週渋谷WWWでカナダのシンガーソングライター アンディ・シャウフの来日公演を観た。2016年のデビュー作『THE PARTY』はその年の個人的音楽10選に選んだし、去年出たFOXWARRENという彼率いるバンドのレコードも素晴らしかったから、とても楽しみにしていたのだけど、日本盤が発売されていないのにWWWはソールドアウト公演になるほど盛況だった。その熱気とは対照的にアンディ・シャウフと5人のメンバー(クラリネットが二人!)が奏でるサウンドの繊細さよ。転がし(モニタースピーカー)が見当たらなかったけれど、メンバーはイヤモニをしていたのだろうか。もしかしたら出音だけを聞いて演奏していたのかもしれない。照明もピンスポットなしの天井灯りだけで暗い。なんだか月明かりの下で聴く音楽のよう。90分足らずのステージ、とにかく完璧で素晴らしかった。
たくさんのミュージシャンが観にきていたが、みんな一様に静かな衝撃と刺激を受けていたように見えた。ヨシンバの吉井さんから13年ぶりの新譜をいただく(彼らもデビュー20周年、今日が『ツヨクヨハク』の発売日)。今年はフィービー・ブリッジャーズ、コートニー・バーネット、そしてこのアンディ・シャウフと素晴らしいアクトが続く。やっぱりライブの現場からもらうヴァイブレーションというのは音楽家としての糧になる。

その翌日はまた渋谷へ出かけてアップリンクファクトリーでアメリカのバンドTHE NATIONALと映画監督・グラフィック・デザイナーのマイク・ミルズによる短編映画『I AM EASY TO FIND』、一夜一度限りの上映会を目撃した。この映像作品はTHE NATIONALが明日リリースする新作『I AM EASY TO FIND』とのコラボレーションだが、それぞれの作家性が拮抗する緊張感と見応えのある25分強の世界だった。音楽ライターの赤尾美香さんと並んで鑑賞、久しぶりにおしゃべりができてよかった。上映後の岡村詩野さんと木津毅さんのトークも楽しかった(詩野さんと会ってからもう20年か…)。THE NATIONALの前作『SLEEP WELL BEAST』は2017年の個人的ベストディスクだった作品。新作も超楽しみ。期待は膨らむばっかりでウキウキしてくる。
映画がとてもよかったので足取り軽く三軒茶屋のニコラで行われていた庄野雄治さんの小説集『たとえ、ずっと、平行だとしても』出版記念パーティーへ。お祝いにBLONDIEの1978年名盤『Parallel Lines』のLPをプレゼントした。平行だとしても、だ。知り合いがたくさんいて、みんな上機嫌で楽しかった。作家の燃え殻さんを庄野さんが紹介してくれたが、同い年の同級生だったのでイチロー引退がわれわれにもたらすことなどについて話して面白かった。庄野さんの本には「緑の車」という短編が収録されていて、先にその一話だけ読んだけれど、改めてこの指でページをめくる感触が楽しみ。しかし、庄野さんの本より先に燃え殻さんの本を読み始めてしまって、もうすぐ読み終わる。もっと早く読めばよかったと思ってるところ。思っていたのと全然違った。




こないだの日曜日には原宿のBA-TSU ART GALLERYで「BONE MUSIC展 〜僕らはレコードを聴きたかった〜」最終日に滑り込んだ。1940年代から60年代にアメリカの象徴であるロックンロールやジャズを聴くことを禁じられた冷戦時代の旧ソビエトで、アンダーグランド・サブカルチャーシーンの音楽ファン達が考え出したのは病院で不要となったレントゲン写真に自作のカッティングマシーンで音楽を録音した「ボーン・レコード」だった。ソノシートのようなぺらぺらのビンテージレコードに息を飲む想い。「好き」という気持ちは不可能を可能に変えたり、立ちはだかる壁に風穴を開けたりするものだ。
手を伸ばせば、いくらかのお金を払えば、探究心を持って地図を辿っていけば、そこには無限のメロディや物語が広がる。その海原を目の前にして暮らすことができるわれわれはとても幸せだ。この何日かで胸いっぱいに吸い込んだ音楽や活字をまた吐き出す何日かが目の前に待っている。