2019年05月15日

なんということでもない、音楽とか本っていいよねーという話

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先週渋谷WWWでカナダのシンガーソングライター アンディ・シャウフの来日公演を観た。2016年のデビュー作『THE PARTY』はその年の個人的音楽10選に選んだし、去年出たFOXWARRENという彼率いるバンドのレコードも素晴らしかったから、とても楽しみにしていたのだけど、日本盤が発売されていないのにWWWはソールドアウト公演になるほど盛況だった。その熱気とは対照的にアンディ・シャウフと5人のメンバー(クラリネットが二人!)が奏でるサウンドの繊細さよ。転がし(モニタースピーカー)が見当たらなかったけれど、メンバーはイヤモニをしていたのだろうか。もしかしたら出音だけを聞いて演奏していたのかもしれない。照明もピンスポットなしの天井灯りだけで暗い。なんだか月明かりの下で聴く音楽のよう。90分足らずのステージ、とにかく完璧で素晴らしかった。

たくさんのミュージシャンが観にきていたが、みんな一様に静かな衝撃と刺激を受けていたように見えた。ヨシンバの吉井さんから13年ぶりの新譜をいただく(彼らもデビュー20周年、今日が『ツヨクヨハク』の発売日)。今年はフィービー・ブリッジャーズ、コートニー・バーネット、そしてこのアンディ・シャウフと素晴らしいアクトが続く。やっぱりライブの現場からもらうヴァイブレーションというのは音楽家としての糧になる。

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その翌日はまた渋谷へ出かけてアップリンクファクトリーでアメリカのバンドTHE NATIONALと映画監督・グラフィック・デザイナーのマイク・ミルズによる短編映画『I AM EASY TO FIND』、一夜一度限りの上映会を目撃した。この映像作品はTHE NATIONALが明日リリースする新作『I AM EASY TO FIND』とのコラボレーションだが、それぞれの作家性が拮抗する緊張感と見応えのある25分強の世界だった。音楽ライターの赤尾美香さんと並んで鑑賞、久しぶりにおしゃべりができてよかった。上映後の岡村詩野さんと木津毅さんのトークも楽しかった(詩野さんと会ってからもう20年か…)。THE NATIONALの前作『SLEEP WELL BEAST』は2017年の個人的ベストディスクだった作品。新作も超楽しみ。期待は膨らむばっかりでウキウキしてくる。

映画がとてもよかったので足取り軽く三軒茶屋のニコラで行われていた庄野雄治さんの小説集『たとえ、ずっと、平行だとしても』出版記念パーティーへ。お祝いにBLONDIEの1978年名盤『Parallel Lines』のLPをプレゼントした。平行だとしても、だ。知り合いがたくさんいて、みんな上機嫌で楽しかった。作家の燃え殻さんを庄野さんが紹介してくれたが、同い年の同級生だったのでイチロー引退がわれわれにもたらすことなどについて話して面白かった。庄野さんの本には「緑の車」という短編が収録されていて、先にその一話だけ読んだけれど、改めてこの指でページをめくる感触が楽しみ。しかし、庄野さんの本より先に燃え殻さんの本を読み始めてしまって、もうすぐ読み終わる。もっと早く読めばよかったと思ってるところ。思っていたのと全然違った。

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こないだの日曜日には原宿のBA-TSU ART GALLERYで「BONE MUSIC展 〜僕らはレコードを聴きたかった〜」最終日に滑り込んだ。1940年代から60年代にアメリカの象徴であるロックンロールやジャズを聴くことを禁じられた冷戦時代の旧ソビエトで、アンダーグランド・サブカルチャーシーンの音楽ファン達が考え出したのは病院で不要となったレントゲン写真に自作のカッティングマシーンで音楽を録音した「ボーン・レコード」だった。ソノシートのようなぺらぺらのビンテージレコードに息を飲む想い。「好き」という気持ちは不可能を可能に変えたり、立ちはだかる壁に風穴を開けたりするものだ。

手を伸ばせば、いくらかのお金を払えば、探究心を持って地図を辿っていけば、そこには無限のメロディや物語が広がる。その海原を目の前にして暮らすことができるわれわれはとても幸せだ。この何日かで胸いっぱいに吸い込んだ音楽や活字をまた吐き出す何日かが目の前に待っている。

Posted by monolog at 21:22│Comments(3)
この記事へのコメント
美味しいもの、美しいもの、面白いものに出会った時、これを知ったら絶対喜ぶなという人が近くにいることを、ボクは幸せと呼びたい。ー 燃え殻 『ボクたちはみんな大人になれなかった』より

刺激的な音楽&映画体験、素晴らしいインプット
ですね。
そして、山田さんの胸いっぱいの思いのアウトプットを享受できる私たちは幸せだと思います。
Posted by naco at 2019年05月15日 22:31
色んな物に触れ刺激され吸収してゆくと、自分の中にワクワクが貯まってきますよね。
そして今度はそのワクワクしたものを形にしたくて堪らなくなってきますよね。
山田さんの新しい作品楽しみにしています!

それと、インスタの“買ったレコード“ “今朝一番に聴いたレコード“ も楽しみにしています。
知らなかったミュージシャン、音楽を聴くきっかけになってます。世界が広がりますね(^o^)
さあ、自分もアウトプットしようっと!
Posted by ぴちかーと at 2019年05月16日 05:08
コメント連投、失礼致します。
山田さんと燃え殻さんとイチローさん、同じ73年生まれなのですね。イチローさんが引退会見で「人より頑張るなんてことはできない。少しずつの積み重ねでしか、自分を超えていけない。間違ったことを続けているかもしれないけれど、
遠回りすることで本当の自分に出会える」と。
イチローさんでさえ、日々の地道な努力なのか、近道はないのかと、ひれ伏したいような気持ちになりました。

そして庄野雄治さん。aalto coffeeさんのことだったのですね。以前から小説も書いていらっしゃることは存じあげていましたが…「私の半分は佐野元春でできているんだ」ー 私も佐野さんの音楽に出会い、今日まで来たような人間なので、嬉しいやら、何やらかんやら。
音楽と書籍の素敵なハーモナイズ、庄野さんの小説集、手に入れなければ。

インスタも今朝、初めて拝見しました。チミもチミママもかわゆす〜♡ Cats save the world !
それでは、長くなりました。今日も山田さんは退屈する間もないのでしょうね。
ピースフルな一日をお過ごしください。

高野寛 『Ride on tide』を聴きながら …
Posted by naco at 2019年05月16日 09:14