2020年01月14日

GOMES THE HITMAN『memori』感想コメント from 五十嵐祐輔(fishing with john/草とテンシューズ)

五十嵐祐輔くんとの付き合いも長くなりました。彼がもともとGOMES THE HITMANのファンで、彼がやっていた各駅停車というバンドのCD『ネオボンボンライフ』にコメントを依頼されからもう20年が経つのです。五十嵐くんはその後 fishing with johnという素晴らしいソロプロジェクトを始めて、僕らのやりとりも続き、気づいたら彼は僕のソロバンドのメンバーになっていました。五十嵐くんは美文家であり、僕は彼の書く文章が大好きなので、リリースのたびに「五十嵐くん、いつものあれ書いてよ」とコメントをおねだりすることになります。20年前にコメントを依頼されたことがきっかけで知り合った二人にとってそれは必然的なことなのかもしれません。今回送られてきた文章を読んで、五十嵐くんは美文家であるまえに考える人、哲学者なのだな、と思いました。

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私は「山田稔明 with 夜の科学オーケストラ」の一員として、彼のソロライブにたまにサポートで参加させていただいているのですが、ライブのセットリストを見て「最近あの曲やらないですね」と聞くと「あ、あれはゴメスのレパートリーになったんだよね」と言われる機会がここ最近増えました。GOMES THE HITMANの14年振りの新作『memori』にはそんな山田ソロ曲からゴメスのレパートリーになった曲もいくつか収録されています。自分が演奏したことのある曲がゴメスのアルバムに入っているというのも何だか不思議な感じなのですが、聴いてみると「ああ、これはゴメスの曲だわ」と実にしっくりと来るのです。曲にふさわしい演奏がそこに鳴っているのです。すでに聴かせてもらっていたデモに添ったアレンジの「小さなハートブレイク」のような曲もあれば、劇的に様変わりした「ブックエンドのテーマ」のような曲もあり、ゴメスのバンドマジックをアレンジにより堪能できました。特に「ブックエンド」の洒脱で大人なアレンジにはこの曲の完成形ってこうだったのかと感動を覚えてしまいました。

メンバー全員のアカペラから始まるこの『memori』はまさにそのバンドマジックがたくさん詰まっています。キャリアを積んだベテランミュージシャンの集まりでありながら大学の音楽サークルの仲間という関係性による軽やかさ。知らない人が聴いたら新人ギターポップバンドのレコードかと思うのではないかという蒼さと瑞々しさは驚くばかりです。

個人的に今作の白眉と思うのは「魔法があれば」です。PLECTRUMタイスケさんによる深いリバーブに包まれた切なかっこいいギターが印象的なこの曲、「そばにいるだけで声なき声で 通じ合える魔法があれば 今さら君を好きだなんて言えないよ」と歌われるのですが、この歌詞、続く一文として聴けば「通じ合える魔法があれば好きだと言えない」というちょっと引っ掛かる文章になり、文脈的には「魔法があれば好きだなんて言わないよ」の方が口下手でシャイな男の歌としてしっくりくるのですが、「言わないよ」をあえて「言えないよ」と否定することで「君を好きだと言いたいからそんな魔法などいらない」というタイトルとは裏腹な情熱的な歌になるのです。これは凄い歌詞だなと思いながら私は何十回と繰り返し聴いてしまいました。後でよくよく歌詞カードを見たら「今さら好きだなんて言えない」から「魔法があれば(いいのに)」というストレートな意味合いにも取れるなと思い直したのですが、最初の私の解釈で聴いた方がグッと来るのでそういう歌だと思うことにしました。音楽を聴く時に自分に魔法をかけることも大事なのです。この曲、サビ頭の「フゥー!」というコーラスも青春ぽくて最高で、アラフィフの大人たちがブースに集まりこれを録音したと思うととても愛おしい気持ちになります。魔法、ここにあるじゃんと思うのです。

何はともあれ、14年振りの新作リリースおめでとうございます。GOMES THE HITMAN、今さら君らを好きだなんて言えないよ。

五十嵐祐輔(fishing with john/草とテンシューズ)


Posted by monolog at 12:44│Comments(0)