2020年07月07日

映画「カセットテープ・ダイアリーズ」と中学生の僕

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レイトショーで映画「カセットテープ・ダイアリーズ」を観た。雨の月曜日の夜に映画を観る人なんてそんなにいなくて、僕含めて5人くらいがだだっぴろいシアターの銀幕の前にいた。ブルース・スプリングスティーンの歌に基づいた青春映画という触れ込みだけでもワクワクして楽しみにしていた作品だったのだけど、想像していた以上に素晴らしくて爽快で、最後は感動して笑いながら泣いた。1980年代イギリスを舞台にした物語だけれど、2020年の今とリンクする部分がたくさんあった。差別、ダイバーシティ、断絶、不況、強すぎる為政者、時代はいつも繰り返す。そしてそこには誰かの心に寄り添い、語りかける音楽が、必ずある。

僕が初めて意識してブルース・スプリングスティーンを聴いたのは1987年だったと思う。大きなスタジアムで旗が揺れるなかで血管を浮かせて「BORN IN THE USA」歌うボスのミュージックビデオを観て興奮した。僕は中学2年生だった。映画の主人公ジャベドは1971年生まれだから僕とふたつしか違わない。同じアルバムを聴き、同じMTVを観たはずだ。人生を変えた音楽、彼にとってはスプリングスティーンで、僕にとってはR.E.M.だった。音楽で世界はなかなか変えられないが、こんなふうにひとりの人間の心を簡単に変えてしまう。きっと誰もが早かれ遅かれ経験すること。共感しかない、最高の映画だった。もう一回観たいな。

話はそれるけれど、R.E.M.が1988年に『GREEN』というアルバムを出したのは、米大統領選挙の投票日当日11月8日だった(そのときの選挙は共和党パパブッシュvs民主党デュカキス、もちろんR.E.M.は民主党支持)。そのときの広告、「11月8日にやるべきふたつのこと」と書かれて掲げられたのはアルバムジャケットと投票箱の写真、まだ選挙権のなかった中2の僕の心に「選挙に行かないなんてダサいこと」っていう刷り込みをしたのは、学校の先生でも両親でも偉い誰かさんでもなくR.E.M.だった。「カセットテープ・ダイアリーズ」のなかで主人公ジャベドは何度もボスの「The Promised Land」で約束の地を夢想する。同じ年齢の頃の僕の頭のなかに流れたのは多分R.E.M.の「Stand」だったと思う。「今おまえがいるその場所で立ち上がれ/進むべき道のことを考えろ/今まで思いもつかなかったその道を」というリフレイン、その解釈は自分次第だった。自分の人生のすべてのシーンに当てはまる歌を歌ってくれるアーティストがいる幸せを噛みしめる。音楽とは素晴らしいものだ。



Posted by monolog at 23:01│Comments(0)