この映画を作った相原裕美監督は、僕にとっては「ビクターの大きくてこわい相原さん」である。大学卒業後に働いた映像制作会社時代に僕が全然仕事ができなくてミスばっかりする新米ADだったことに由来している。僕は相原さんが担当するアーティストのミュージックビデオの制作の末端にいくつか関わったのだけど、ずっと忘れられないのがFLYING KIDSの「ディスカバリー」という曲。MV撮影当日に演奏シーンで使うスモークマシンを載せた機材車を僕が事故して大破させてしまって(廃車に)撮影スケジュールが大幅に狂い、僕は結局その日その現場にいかなかった(病院に行ったけど無傷だった)。その数日後だったか、同時進行で進んでいた同じくFLYING KIDSの「僕であるために」という曲のMV撮影現場に出向くときの申し訳なさ、気まずはものすごかった。どんだけ怒られるかと思ったが相原さんはそのとき多分「大丈夫だったか?」とニコニコ笑ってくれた。だから僕にとって「ディスカバリー」はトラウマソングであり、「僕であるために」はなんというか、なぐさめの曲に聞こえる。久しぶりにYoutubeで見て聴いてみたけれど、あれこれいろんなことを思い出した。
音響ハウスという僕と同い年の老舗スタジオでギタリストの佐橋佳幸さんとレコーディングエンジニアの飯尾芳史さんがひとつの楽曲を完成させる過程を記録した映画。そこに名だたる名音楽家と日本のポップス界を耕していった音楽プロデューサーたちの回想が重なっていく。4リズムのベーシックトラックの上に葉加瀬太郎氏がヴァイオリンをダビングしたときの高揚感はまさにそのスタジオにいるかのような感覚、その後の葉加瀬氏の軽妙なジョークも現場をグルーヴさせてゆく。これぞレコーディング、という感じ。スタジオが主役という稀有な作品だが、最初から最後までずっとワクワクしながら観た。スクリーン越しでもスタジオの魔法を感じました。
