2023年08月14日

貸切り図書館83冊目(2023年8月12日 @ 鎌倉moln)【ライブ後記】

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鎌倉モルンでの4年ぶりのライブ。コロナ禍中も不要不急なのにこっそり湘南へ遊びにいったり五十嵐くん綾ちゃんを訪ねてご飯を食べたりはしていたんだけど、生業である音楽を持ってこのお店に戻ってくることができて本当に嬉しい。夏休み中の渋滞を見越して少し早めに吉祥寺を出発、しかし道はスムーズで逗子まで行って海沿いの道を選んで走った。湘南の海は灼熱で、そこで人々が芋のように波に洗われている。眩しくて目が痛いほど。

モルンはいつものモルンだった。綾ちゃんがニコニコしていて五十嵐くんが機材をセットアップしてくれている。僕は静かな感動をひそかに感じつつも、何を歌おうか最後の調整を。五十嵐くんに「せっかくだからベース弾かない?」と提案したのはライブの前の晩だったから、真面目に練習。この日のモルンは満席。開演前、控室にいると壁一枚の向こうからはお客さんの楽しそうな声と笑いが聞こえてきた。「止まっていた時計が動き出す」という常套句があるけれど、モルンにさらなる賑やかさが戻ってきたのかなと嬉しくなる。友部正人さん、直枝政広さんというレジェンダリーな大先輩に続けて僕を呼んでくれた五十嵐くんたちに感謝。

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日の暮れない夕方からのステージを想定して「夏の日の幻」「何もない人」と夏の太陽を封じ込めた歌からスタート。GOMES THE HITMAN『weekend』からもう1曲「長期休暇の夜」、この歌のとおり僕は鎌倉に長崎の駄菓子屋で買った線香花火と数年前から納戸で眠ってた花火セットを持ってきたのだ。モルン名物のイベント「貸切り図書館」はお気に入りの本の紹介と絡めて進めていくスタイル。まず紹介したのはピーター・キャメロン著「ウィークエンド」と「ママがプールを洗う日」。これはアップダイクの「カプチーノを二つ」を訳した山際淳司の名前を頼りに学生時代に手に取った本。その3冊はアルバム『weekend』の頃までの楽曲の歌詞に大きな影響を与えた。どのページを開いてもキラキラした活字が踊る本。

音源化されていない新曲群「saturday song」は“アナザー・ウィークエンド・ソング”、今年バンドのアニバーサリーライブのために書き下ろした「レモンティーと手紙」と「余韻」も弾き語りで歌うのが新鮮。鎌倉といえばサザンオールスターズ「鎌倉物語」。海のない町で育った僕はサザンを聴いて湘南を夢想したものだ。1985年のアルバム『KAMAKURA』からもう一曲サザンのカバー「夕日に別れを告げて」。外もちょうど暮れ始めていい頃合いに。綾ちゃんが材木座海岸の夕焼け空を “桃色爆弾” と命名したのは数年前。僕の歌にも「桃色の雲」というのがあるのでこの空に捧げる。桃色の雲の下で夏の最後の思い出が飛び立つあの羽根音を聞きながら。

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五十嵐くんを呼び込んで本の紹介。『怪のリディム』はミュージシャン劔樹人さんが描いた怪談漫画。劔さんが在籍するバンド「あらかじめ決められた恋人たちへ」が五十嵐くんのfishing with johnと近い界隈で活動していたこともあって、この本のこわおもしろさを教えてあげたかった。もう一冊、これは個人的にすでに五十嵐くんには推薦していた本なのだけど、伊藤聡著「電車の窓に映った自分が死んだ父に見えた日、スキンケアはじめました。」という個人的極私的コロナ禍のぼんやりした退屈を象徴する本。ここからしばらく僕のスキンケア話が続いて、五十嵐くんも前のめりで聞いててバカバカしかったよね。でもとても楽しかった。

五十嵐くんとの演奏は「glenville」「hanalee」「光の葡萄」。前夜のやりとりで「せっかくだからベース弾かない?」のあと直感で迷わず選んだのがこの3曲だった。やっぱり特別な歌たちなんだろう。何度も五十嵐くんと演奏したこれらの曲だけど、ベースとギター弾き語りでセッションするのは多分初めてで音の重なりがとても新鮮。弾き語りでは半音キーを下げて歌っている「hanalee」「光の葡萄」をオリジナルキーで響かせていることも新鮮な理由かもしれない。五十嵐くんはパーマをかけて、いい感じにミュージシャン風情が増した。今年初めての人前での演奏だったそうで、それがこの日のステージで嬉しいなと思う。

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サニーデイ・サービスの本、北沢夏音著「青春狂走曲」と曽我部さんの「晴れた日には君の好きなレコードを」を紹介。コロナ禍に下北沢で無観客配信をやるときに何度か曽我部さんのカレー屋さん八月、その階上のPINK MOON RECORDSに立ち寄って、曽我部さんと立ち話するのが好きだった。コロナ禍初期にリリースされた『いいね!』というアルバムが僕は大好きで、そのオープニングトラック「心に雲を持つ少年」から捻ってThe Smiths「There is the Light that Never Goes Out」をカバー。一番好きなスミスの曲。“ずっと消えない光”をまとったまま新曲「走馬灯」。去年実家に帰ったとき作った歌、歌詞を8月になってから書き足した。あれからたった8ヶ月後にいろんな意味が付帯することになるとは思わなかった。

長崎と佐賀を車で移動したときに聴いた『ripple』(ブックオフで救出した)がとても心に響いて、あの伏し目がちなアルバムのなかで一番ハッと前を向かせてくれる「サテライト」を久しぶりに歌った。今読んでいる本としてミシェル・ザウナー著「Hマートで泣きながら」を紹介。「小さなハートブレイク」と「memoria」を今歌ったらどんな気持ちになるかと思って取り上げてみるが、なんともまだ言葉にできない。きっともうこの日ほど夏らしい風景を今年はもうないだろうと思って波音に誘われて「high tide」をアンコールに。最後は「セラヴィとレリビー」。歌いたいだけ歌った、という2時間でした。音楽って素晴らしいなと思いました。お客さん、五十嵐くん綾ちゃん、スタッフに友だちみんなに感謝。

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打ち上げで美味しいご飯を食べて、近況報告をしたり、しんみりしたり、あ!と思い出して花火をしたり、久しぶりに五十嵐家の猫たちを急襲してシャーシャー言われたり、この日は一日中、一瞬一瞬が印象深くて、とても良い日でした。砂浜で海を感じる余裕がなかったり(暑くて無理)、ディモンシュに立ち寄れなかったりしたから、また近いうちに、秋の海を見にいきたいと思います。

Posted by monolog at 23:37│Comments(0)