このマウイでの旅で「THE MUSIC MAKER」という楽器を買った。ハワイアンミュージックの伝説ギャビー・パヒヌイのカセットテープは手に入れたけれどウクレレを買う経済的余裕はなくて、この見たこともない楽器なら手持ちのお金で買えたのだ。東欧の内陸国ベラルーシ製の楽器だ。マウイ島で買う意味はまったくない。だけど僕はこの合板で作られた台形の楽器をマウイで買った。GOMES THE HITMANがアマチュア時代から演奏している曲に「緑の車」というのがある。今週末のライブで演奏するので音源を聴いて復習していたら、サビの前にハープのような煌びやかな音がして記憶が一気に蘇った。キラリと鳴るその音はまさにこの「THE MUSIC MAKER」をかき鳴らした音だった。僕が持っていったこの楽器をプロデューサー村田和人さんが面白がってくれてダビングしたのだ。他のどの楽器でも替えが効かない響きがそこにはあって、巻き戻らない時間みたいに感じた。
メジャーレーベルとの契約がなくなって一番お金がない頃に僕はたくさんのレコードや機材と一緒にこの「THE MUSIC MAKER」をオークションに出して売った。この楽器は「緑の車」の煌めきを吐き出してその役割を終えた、と僕は思ったのだろうか。ああ、これが手元にあったらな、とは思うけれど、僕らは今でもしっかり「緑の車」をあるべき形で演奏することができる。なくなったもののかわりに、違う響きを鳴らすことができるということがわかっている。画像はネットから拾ったもの。いつかどこかの古道具屋で再会したら買い戻すかもしれないけどね。
マウイの街が山火事で焼失してしまったニュースを日々呆然と眺めた。マウイで買ったベラルーシの楽器と「緑の車」のことをこの数日ずっと考えている。被災地の一日も早い復旧・復興を心より願う。

