2015年7月18日(土)@ 名古屋 揚輝荘 多目的室
夜の科学 in 名古屋 −for the loved one
1.my favorite things
2.猫町オーケストラ
3.太陽と満月
4.夏の日の幻
5.長期休暇の夜
6.一角獣と新しいホライズン
7.ポチの子守唄
8.些細なことのように
9.ブックエンドのテーマ(新曲)
10.lucky star(新曲)
11.small good things
12.hanalee
EN
13.ハミングバード
「ポチの子守唄」について
山田さんと僕は昨年、同じ季節に愛猫を亡くし、それが縁で知り合った。
しばらくして「この曲はぜひ近藤さんと一緒に」と手渡されたデモが『ポチの子守唄』。
深呼吸をしてからそのボーカルトラックのみをア・カペラで聴いた。
思ったよりテンポがよく明るい。彼の歌声を聴きながらそのフレーズの隙間に、
我が愛猫マルオへの思いが溢れては染みこんでいくのを抑えられなかった。
自分は編曲家である前にただの猫好き。ポチの一周忌に捧げられるこのアルバムは、
カラフルなジャケットを含め、一貫して前向きで力強い。
そこにセンチメンタルな響きを付加してしまったことは仕事としては少しまずかったかもしれない。
でもタイトル『the loved one』にかけ大目にみてほしい。猫愛は存分に出せたと思う。
近藤研二
『the loved one』によせて
アーティストの心には、だいたいたくさんの穴があいているものだ。
その穴を埋めるために、彼らは詞を書いたり絵を描いたり曲を作ったり歌ったりするのだ。
愛猫を失ったアーティストの心に空いた穴はどれほど大きかったことだろう。
でも、その穴が大きければ大きいほど、それを埋めるための力は輝きを増してゆく。
一聴するとやわらかなこの六編の歌に刻み込まれた確かな想いは、
きっと僕やあなたの心を震わせるのだろう。
高野寛
『the loved one』に寄せて
実は、山田稔明をよく知らない。
十年以上前に一度だけイベントで共演したっきり、
再会したのはついこの間、二年前の夏。
それもやはり同じくイベントの場だった。
彼が変わったのか、僕が変わったのか、その辺りは定かではないが、
彼が素晴らしい曲を作って、歌っていることに心から驚いた。
同じ音楽家としてショックだったと言ってもいい。
それからは自然と親交を深め、今も良い刺激を受け続けている。
残念ながらこの作品の主役、猫のポチくんのことも、実はよく知らない。
もっと言えば猫を意識するようになったのも山田くんと再会してからのこと。
ただ、そんな山田&猫の新参者でも、この六篇のストーリーから
ポチくんの生命を読み取ることはできる。
果たして自分に愛する何かを想って一枚のアルバムを作ることが出来るだろうか。
彼は見事にやってのけた。それは思っている以上にすごいことなのではないだろうか。
僕は今、山田稔明をもっと知りたいと思う。優しいギターが紡ぎ出す、新しい音楽を。
追伸:イギー・ポップをやる時は俺の許可を取ってくれよなー(笑)
2015年 初夏 高橋徹也
愛するものへのまなざしー『the loved one』に寄せて
山田稔明の新しいレコード「the loved one」は愛するものへのまっすぐなまなざしが眩しいほどに溢れたアルバムです。そのまなざしの先にいるのはポチという名前の猫、その愛猫ポチの寝そべる日向、その日向の差し込むあたたかい家、そこで続いていく暮らし、暮らしにまつわるささやかだけど大切なこと。彼はこれまでも日常の機微を手のひらに掬い上げ歌にしてきましたが、そこの中心にはいつもポチという名前の猫がいました。そのポチが天国へ旅立ってちょうど1年、「ポチに捧げるラブソング集」として丁寧に紡がれた本作が私たちの手元に届きました。このアルバムは山田稔明からポチへの贈り物であると同時に、ポチを亡くした哀しみを共有した私たちへの贈り物でもあり、彼と同じく身近に愛するものを持ちながら暮らす私たちの「慈しむ気持ち」を肯定し力強く背中を押してくれる作品集です。
2001年リリースのGOMES THE HITMANのシングル「饒舌スタッカート」のジャケット写真撮影で出会って以来、13年に渡り彼の大切なパートナーとして共に暮らしてきた愛猫ポチが天国へ旅立ったのは昨年の6月のことでした。彼のポチへの溺愛ぶりは彼のブログやSNSで目にされ、様々な楽曲に登場するミューズとして耳にされ、写真絵本「ひなたのねこ」やポストカードなどのグッズとして手にされ、ファンの方々の間でポチはアイドル的存在として愛され、山田稔明を語る上で欠かせない存在でした。彼がライブのMCで毎回のようにおどけながら語る「たぶん世界で1番可愛い猫なんじゃないかな」宣言には彼の溢れて零れ落ちてしまうほどの愛情が見えて、耳にする度に「ポチは幸せな子だなあ」とこちらも笑みが零れたものです。
そんな彼の精神の一部でもあったポチを亡くした喪失感を思うと今でも心が痛みますが、この1年彼は休むことなくステージに立ち続け、歌い続けて前に進んで行きました。連日の不眠の看病の渦中に生まれた「ポチの子守唄」は勿論、過去に書かれたポチへの歌も亡き後さらに響きを深いものへと変え、聞く者の心を打ちました。夜の科学オーケストラ全員とお客さんでポチを見送った追悼ライブの神聖な雰囲気は今でも強く印象に残っています。
そんなポチへ捧げられた今作『the loved one』はしかし暗く深刻なムードでは決してなく、むしろ軽快でポップな仕上がりになっています。その背景には彼の側に現れた新しいミューズ、ポチ実の存在が大きいのかもしれません。ポチが亡くなって2ヶ月後のある日、彼の家の庭に突如ポチそっくりの野良猫が現れ、その子を保護して家族の仲間入りをするという奇跡のような物語が彼に訪れました。ポチの生まれ変わりかと見紛うその子はポチ実と名付けられ、その後山田家の日向で喉をゴロゴロと鳴らすようになりました。この新しい家族の存在がアルバム全体のムードをより日向の方向へ導いたのかもしれません。
隅々までポチ愛に満ちた本作では「好き!」と大声で宣言したり、「好きだよ」とそっと耳元で囁いたり、「好きなんだよなあ」と呟いてみたり、実にたくさんの好きが歌声から滲み出ており(彼の故郷の言葉では「好いとーよ」になるのでしょうか)、そのそれぞれの「好き」に元気が出たり、切なくて泣きそうになったり、優しい気持ちになったり、聴きながら大いに感情が揺さぶられたのですが、最終的には自分も身近な愛すべき存在への気持ちをまっすぐに向けて暮らしを紡いでいきたくなりました。
今作はお馴染み夜の科学オーケストラの面々の力強いサポートに加え、猫が縁で交流が生まれユニットを組むまでに至った近藤研二さんによるサウンドプロデュース、近年ライブでも共演している高野寛さんによる熱い客演など聴きどころも満載の充実作となっています。特に近藤さんの手による「ポチの子守唄」の死者を優しく悼むような繊細で美しいアレンジは自身も猫を亡くした経験を持つ者としての最大限の慈しみが感じられ、深く胸に沁み入りました。
本作を手に取ったみなさんにはぜひ大きな音で或いはささやかな音で、家の中で仕事場で車の中で青空の下で暮らしの中で、雨の日や曇りの日や嵐の日にもこの愛に満ちた歌々をたくさん鳴らし、耳を傾けていただきたく思います。日向に降り注ぐ光のような「好き」を浴びて私たちの日々はより確かに豊かに感じられることでしょう。
『the loved one』はそんな光に満ち溢れたレコードです。
五十嵐祐輔(fishing with john/夜の科学オーケストラ)
参加ミュージシャン:安宅浩司(guitars, pedal steel, mandolin on M-1、M-2、M-3、M-4、M-5)、イトケン(drums, percussions on M-2、M-3)、上野洋(flute on M-3)、海老沼崇史(bass on M-1、M-2、M-3、M-4、M-5)、kainatsu(chorus on M-6)、近藤研二(arrangement, guitar, organ on M-3)、佐々木真里(arrangement, keyboards on M-1、M-2、M-4、M-5)、sugarbeans(drums on M-1、M-4、M-5 keyboards on M-6)、高野寛(guitars on M-2)、立花綾香(chorus on M-5)(50音順)
all songs written, produced by 山田稔明