


いつの間にか眠りに落ち、昨日と今日が重なりうように入れ替わり、日の出前の鳥のさえずりと広場からのお経と音楽で目が覚めたバリ島滞在最終日(9月14日)。この日もウソみたいにきれいな朝焼けに目を奪われていたら「ミャー」と高く澄んだ声でタマが鳴いて擦り寄ってきた。期せずして出会った可愛い猫との別れを惜しむ時間。この日僕はデンパサールからの最終便で帰国することになっていた。出発までに約半日の時間があるので、遠出はせずに、ここから歩いて回れる範囲でバリの村の風情と雰囲気を楽しんで過ごすことに。バリ島にはガイドブックに載るような特別な観光地ではないエリアにも古い仏塔やバリらしい門構えがたくさんあって、どこを眺めても飽きることがない。色鮮やかなチャナンがあちこちに供えられて、本当にそこかしこに神様がいるように思えてくる。
朝食のあと、歩いて朝市まで出かけることにした。まだ正午前だが太陽は高く昇り色濃い影を映しながら容赦なく降り注ぐ。暑さと汗と湿度を噛み締めながらマーケットを往復してたくさんのお土産を買う。コンビニ事情も知りたくて入ってみたのはインドマレット(Indomaret)。バリにはサークルKやアルファマート、ミニマートとたくさんのコンビニがありましたが、インドマレットはインドネシアで一番大きなチェーン店だそう。ぱっと見た感じは日本のコンビニとそっくりなんだけど、やっぱりよく見れば文化の違いが面白い。調味料売り場にはインドネシア名物サンバルの小分けパックなどがたくさんあってお土産にちょうどよかった。コーヒーとかお茶などの暮らしに密着したものの微細な違いも興味深い。インドネシアのお金はルピア、日本円の100分の1という感覚。ゼロの数が多くて最初戸惑ったけれど一番高額な10,0000ルピア紙幣が約1000円だと考えるとすぐに慣れました。
友だち連中に配るお土産として買ったのは前述したサンバル、お香、石鹸、豆菓子なんかも日本には売ってなさそうな、美味しそうなやつが多かった。ここぞとばかりに散財。マーケットの一角には趣向を凝らした木細工屋さんがたくさんあって、猫の形をした秘密箱が可愛くて購入、父親への土産に。バティック(バリ特産の布)で織られた部屋着によさそうなムームー的なワンピースを母親に。自分用にいかにもバリ的な、なにか形に残るものを探していたんだけど、僕の心を撃ち抜いたのはシャムみたいな柄の猫が瞑想している木の人形でした。









買い物をたくさんして満足。英語がほとんど通じないはずなのに、身振りや指先の仕草で3日前よりうまく意思疎通ができるようになっていることに気づいてハッとした。炎天下、日陰を探しながらゆっくり街歩きを楽しみました。放し飼いの犬、スマートな猫、咲き誇る花、クスクスと笑いあっている子どもたちが「ハロー」と僕に手を振るので「ハロー」と手を振り返すと、またクスクスと笑って走り去っていった。昼食は町の屋台で買ったナシチャンプルー、とても安くて美味しかった。お昼過ぎに家に戻り、僕は名残惜しくて、またぷかぷかとプールに浮かぶ。水に疲れたら日陰で本を読んで、眠くなったら寝るという至福の数時間。トシコさんのお気に入りだというマッサージ師を呼んでくださったので、僕も旅の疲れを揉みほぐしてもらった。完璧なバカンスである。
今回の旅に僕はギタレレを持参していた。なにか思い立ったらすぐ楽器に手を伸ばせるようにしていたのだけど、そんなに簡単に音楽の神様は褒美をくれない。しかし旅の最終日にこのギタレレが役に立つことになろうとは…。午後の微睡みの時間を過ごしていた僕の耳に「キャッキャッキーッ!」と奇声が聞こえてきたので窓の外を見ると、野生の猿が10匹ほど徒党を組んで庭を闊歩していた。ここ最近野生の猿が悪さをして花や果物のつぼみを食べ散らかしてしまうことが続いているらしかった。「また来たわ、猿たち。こら!こら!!」とトシコさんがパンパン手を鳴らして猿を追い払おうとするも、猿たちは遠巻きにまだこちらを覗いている。ここは東洋から来た男が威厳を示さねばなるまい。僕はギタレレを片手に庭へ出て、E/F/Eとフラメンコみたいな調子でジャカジャカとかき鳴らしながら近づいていくと猿たちは「は!?」という顔をしてひるんだ。そしてギタレレのボディをバンバン叩いて庭を駆けると猿たちは散り散り四方へとに逃げ帰っていったのでした。「これでもうしばらくは来なくなるかもねえ」とトシコさんにも喜んでもらえた。この5日間の旅の間で一番息を切らした瞬間でした。


最後に早めの夕飯に美味しいちらし寿司をいただく。あっさりした味が僕をスムーズに非日常から日常へと誘ってくれるような気がした。僕は最後にリビングで歌を数曲歌ってこの数日間のお礼を。ここでもギタレレが役に立ちましたね。本当に夢のような時間、どれだけ感謝しても足りない。お世話になったトシコさん邸を出発。空港までの道はエヴァンさんが車で送ってくれる。「指差しインドネシア語会話」という本で憶えた言葉で「ラジオつけてください」と言うと、エヴァンさんはニコっとしてご機嫌なチャンネルを鳴らしてくれた。もっといっぱい喋れるようにメモしてたんだけど、うまく切り出せなかったな。40分ほど走ったらデンパサール空港に到着。最後の最後に「Sampai jumpa lagi!(サンパイジュンパラギ=また会いましょう)」とちゃんと言ってエヴァンさんとハグすることができました。帰りの飛行機のなかから見た星がびっくりするくらいきれいで、このまま起きていようかと思ったけれど、気づいたらちゃんと朝まで眠っていました。
たった5日間の旅でしたが、自分にとってはとても良いタイミングでの心の開放だったような気がします。東京に帰ってきてからモノの見え方が変わった気もする。出会ったすべての皆さん、お世話になった方々に感謝。サンパイジュンパラギ、またすぐに会いましょう。以上、猫町旅日記バリ島編でした。

