
何がきっかけで「ライ麦畑」を中学の終わりに読んだのか今では思い出せないが、思うにサリンジャーとは“はしか”のようなもので、例えばFlipper's GuitarとかNIRVANAとか(人それぞれここに違う名前があてはまる)に似ている、気がする。なにかを掘り下げていくきっかけになったり、誰かにとっては人生のメルクマールになるような、そういう存在だ(ある世代にとっては、と限定すべきかどうかはわからない)。
大学時代は本当にたくさんのサリンジャー作品を読んだが、僕が一番好きなのは「大工よ、屋根の梁を高く上げよ」という“グラース・サーガ”の断片だった。授業ではサリンジャー研究者の先生について「ナイン・ストーリーズ」をたくさんの文献と並べて読み解いていたけれども大学への行き帰りで楽しんで読んだ「大工よ..」が一番だった。
サリンジャーは生きていてもひっそり息をひそめているような隠遁作家だったけれども、亡くなったというニュースを聞くと、とっくに20世紀は終わっていて今が2010年だということに改めて気付かされる。
サリンジャーが享年91歳だと知って、現在病院で寝たきりになっている僕のおばあちゃんと同い年であることに気づき、年老いたサリンジャーの最後の姿を少しだけ想像できたような気がしました。RIP。