
本屋をうろうろしていたら「Jポップな日本語」という本を見つけてパラパラとめくり、だいたい書いてあることは予想がついたのでみなまで読まずに棚に戻したが、最近TwitterのタイムラインにもJポップの歌詞についてのつぶやきがたびたび浮かんでくる(「最近のJ-POPの歌詞、同じ空の下にいすぎ 夢を夢で終わらせなさ過ぎ 眠れぬ夜多すぎ 寂しい夜迎えすぎ 不器用な俺だけどお前のこと守りすぎ...」というやつ)。それは嘲笑的だったり自嘲気味だったり、あるいは現場的危機意識を持ったリツイートだったりする。使い古されたフレーズやなんとなく適当にまとめた口当たりのいいクリシェは地雷のようなもので、願わくば踏まないようにしたい。
歌詞についてのイロイロはいつの時代も、ある。ずいぶん前に古本屋で見つけた1970年代の「ニューミュージックマガジン(ミュージックマガジンの前身)」にもジャパニーズロックの歌詞問題という特集があって「最近の歌詞はめちゃめちゃでトンとワカラナイ!」と書いてあるのだから。大人が若者の言葉遣いを揶揄するような感じで。
自分で歌詞を書いてそれを人の前で歌うというのはなかなか覚悟のいる行為で、僕がバンドを始めた頃ずっと英語で歌詞を書いていたのは日本語で歌うのが恥ずかしかったからだ。それが今では日本語で歌詞を書いて歌うことが生業になっているからなにがどうなるかわからないものだ。もう10余年ずっと歌詞を書くことをやめないでいる。
僕はゼロ年代後半の数年間、音楽専門学校で作詞クラスの講師をアルバイト的にやっていたことがあるのですが、誰からレクチャーを受けて歌詞を書くようになったわけではないので教え方もなにも行き当たりばったりで、初めての授業で「課題;来週までにお気に入りの手帳、ネタ帳を手に入れる」、次の授業で「書きやすいペン/筆記用具について」という講義をやってクラスを不安の底に落としいれたことがある。
歌詞を書く技術とかコツとかは、もしそういうものがあったとしても音楽の良し悪しには関係ないような気がしていたので、それからあとは「1番で“僕”と歌いはじめたら2番でいきなり“オレ”になったらいけないよ」とか比喩(直喩と隠喩)についてグルメレポーターの彦摩呂の“たとえ発言”(「うわー、なんとかの宝石箱やー!」的な)を引用したりとやりたい放題で、今から思えば相当楽しいディスカッションをしていたように思います。
芥川賞作家の保坂和志氏に対面したとき歌詞についての話をさせていただく機会があったのですが、「歌詞のモチーフが広がっていかない」という僕に「歌詞で言うべきことなんてそんなにある?音楽でも小説でも大事なことはひとつかふたつくらいなものではない?」というようなことを言われた。それで僕はとても解放された気がして、それ以降の僕はひとつかふたつかの歌いたいテーマを何曲もかけて、アルバム何枚にもわたって書くという作風にシフトした(と思っています)。
作詞クラスをやってみて学生が提出した歌詞を見たり添削したりして感じたことは、歌詞に上か下はなく右か左か(限定的な意味ではなく同地平線上にあるという意味で)しかない、ということでした。個人的趣向でいうと、僕は自己満足的で自己完結しがちな甘ったるく夢見がちなポエムのような言葉の連なりが好きではないけれど、いいか悪いではなく、好きか好きじゃないかで受け止める側が取捨選択すればいいものが“歌詞”だと思います。
そういうことをぼんやり考えたりしながら、今日もこれから日暮れまで歌詞を書く作業です。
※画像は最近読んで面白かった&最近面白くて読んでいる分厚い本たち、「ジョニー・B・グッジョブ」
「日本のヒップホップー文化グローバリゼーションの<現場>」「魔獣の鋼鉄黙示録ーヘビーメタル全史」。

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