6月を通して行われた、イラストレーター福田利之さんとミルブックスによるスススクール “CDジャケットのためのイラストレーション講座”に実験台というか、ジャケットを依頼するアーティストの立場としてゲスト参加させてもらいました。最終回の作品発表時にはその場に居合わせることができなかったのですが、受講生の皆さんの素晴らしい作品を写真で見せていただいたので、それについていろいろ。少し長いエントリーになりますがお付き合いください。
全3回で行われたワークショップでしたが、第1回目は福田さんとミルブックス藤原さんからのCDジャケットの仕事をする上で参考になる話や裏話、そして僕がジャケット制作を依頼したい「光の葡萄」「予感」の2曲を聴いていただき、この曲についてのイメージ、キーワードなどをいろいろ皆さんに伝えました。第2回目はわれわれそれぞれが好きなイラストレーションによるレコードジャケットなどを紹介しつつ課題として描いてきていただいたラフスケッチを見ながらあれこれ軌道修正も含めて福田さんが的確なコメントをするという流れ。そしていよいよ第3回目に受講生の皆さんがその作品を完成させてきてレコード会社やアーティスト、スタッフを惹きつけるべく熱いプレゼンをする、という具合でした(最終回には僕の不在のかわりにかつて僕のアーティスト担当だったレコード会社プロデューサー穂山氏にゲストインしていただきました)。
20名ほどの参加者の皆さんが「光の葡萄」あるいは「予感」を作品として具現化してくれたのを見て、その思い入れとか意味付けとか、いい意味での妄想や思い込みがとても面白く興味深く、このワークショップに参加できて楽しかったなあと心から思います。参加者の中にはイラストレーターやデザイナーとしてすでにお仕事をされている方から、これからそうなりたい方、福田さんのファンでふらっと参加してみた方や普段イラストなどまったく描かない!という方など多岐にわたりました。講座では最後にそれぞれ福田利之賞、ミルブックス賞、穂山P賞を授与。これからそれらの作品を紹介していき、最後に僕が選んだ山田稔明賞を選出したいと思います。
まずはこの2作品。
今回楽曲を選ぶときに具体的なイメージが湧きやすい「光の葡萄」とイメージが漠然としているがゆえに様々な発想が浮かぶのではと「予感」にしたのですが、これら二つは「予感」のジャケットでしょうか。どちらもイラストの世界観がすでに出来上がっている印象があります。特に右の、花の苗を持っている女の子のジャケットはセンターに明朝体で「予感」と書き入れたくなります。
そして「光の葡萄」で3作品
左から、水色のバックと葡萄のコントラストが爽やか。原画の上にパラフィン紙のようなレイヤーで独特な質感、個人的に僕は手のイラストが好きなので惹かれました。次の作品は「光の葡萄」の文字もデザインの一部になっていて電車が走っていたり細部も楽しい。写真で見ると異なる紙を重ねているようにも見えますが実物が見たかった!と思わせられますね。右側の作品は妙に印象に残りました。全体的な(いい意味で)いびつなバランスと、これも和紙のようなものを重ねた?感じの紫色のライン。その意匠を問うてみたい作品です。
そして植物をモチーフにした、タッチの違うイラストの作品が3つ。
春の歌だから「予感」では花や植物を描く人が多かった。左側の作品はラフスケッチを見たときから好きな感じの絵でした。木と根、そこから始まるアナザーストーリー。真ん中の作品、夜の樹からこちらを見る動物はなんでしょうか気になります。下に線路が通っているのも意味深ですね。右の作品は宝石から芽生える、なにかを予感させるイラスト。これ解像度高い画像で見たくなるような色合いとタッチで、指で触れてみたくもなります。
次に僕の姿をモチーフにした3作品。
左の作品、ギターを抱えた姿は僕自身に見えます。光の葡萄が乱反射するようで淡いタッチも気持ちがいいですね。真ん中、漫画/アニメに疎い僕にはとても新鮮なイラストに思えました。背景には漫画が描いてあってストーリーが気になります。僕の着ている服とかよくスケッチしてあるなーと感心。そして東京スカイツリーに登ったときの僕の後ろ姿を模写したのが右側の作品。非常にシンプルですが、漂う寂寥感とか都会の孤独なんかを受け取りました。
シンプルな線の作品を3つ。
左から。男の子と女の子、上下回転させても成立するシンプルなイラストは「恋の予感」を醸し出します。真ん中の「予感」も花のイラスト。ラフ出しのときに誰かからケシの花(ポピー)の花言葉が“予感”だと教わり、それ以降この歌を歌うときにケシの花が頭に浮かぶから不思議なものです。右の作品は大島弓子的(グーグーとかサバを思い出す)でとてもかわいい。左手がスカートの裾を握っているのもいいですね。
抽象的なコラージュと、淡い色味が目にやさしい2作品。
左の作品、これは画像から想像するにボール紙に色を塗って貼ってあるのでしょうか、それでも「光の葡萄だな」とわかる明快さも併せ持っていますね。真ん中の作品はどこか近未来か近過去の世界を想像させます。井上直久さんのイバラードの世界みたい。右の作品は春のイメージを強く想起させますね。スタンプを使った意欲作、新しい季節の予感です。
*追記(7月11日)
様々な物語を包括していそうなこの作品。
原画とそれの説明を補足するトレーシングペーパーのメモ。つないだ手と手からこぼれる言葉はなんと描いてあるのでしょうか?「antendnt」?プレゼンテーションを聞きたかった。機会があれば物語を聞かせてください。
それではここから最終講義時に選出された受賞作品です。まずはレコード会社プロデューサー穂山賢一氏(一緒に『omni』から『ripple』までを作った人です)が選んだ穂山P賞。
穂山さんは「レコード会社の人間らしく素直に選んだ」とのことでしたが、猫がいるというところも「山田稔明」っぽいし「光の葡萄」の内容をまっすぐ伝える作品だと思います。この作品を描かれた方がご存知かどうかわからないけど1999年の「雨の夜と月の光」と共通する雰囲気があってハッとしました。
そしてミルブックス藤原さんが選んだmillebooks賞。
藤原さんが「単純にとても美しい作品だと思ったので」というように、しばらく眺めていたいような作品です。眺めていると葡萄、その葉、そして雲の切れ間から覗く光などが浮かび上がってくるようです。「光の葡萄」というタイトルをいれるとしたら左下?右上?思い切って文字要素は帯だけにしてもいいかもしれませんね。
福田さんの福田利之賞の前に、僕が選んだものを。ふたつの作品で迷ってしまったのですが惜しくも山田稔明賞を逃した次点はこの作品でした。
猫も可愛く、色のコントラストも文字を想定したパターンも(そのフォント感も)とても好みでした。次点とした理由はこの画像を見て「ん?これ、もしかしたら福田さんがこそっと僕へのサプライズのために描いたイラストなんじゃないか?」と思ったからです。この方の他の作品も見てみたいのでその機会があれば嬉しいなと思います。
そして福田さんが選んだ福田利之賞はこちら。
これは僕が高層マンションに見た“光の葡萄”の、その内側の世界なのだそうです。このゆるくて緊張がほころんでしまうようなタッチのイラストはクセになります。ラフの段階でも完成度の高い作品でしたが黄色の背景、色を付けてもその空気感は凛としていました。福田さんのような緻密な筆致の方がこういう一筆書きのような(実際はそうではないのだろうけど)イラストを選ぶところが面白いですね。
そして僕が選んだ山田稔明賞はこちらです!
ビル群にレイヤーされたブドウという、ストレート過ぎるイメージですが、僕がお台場の高層マンション群で見たのはまさにこんな風景だったのではなかったか、と感じました。写真で見ると薄紙に切り絵のような感じに見えますが実物はどのような感じだったのかとても気になります。僕の好きなWILCOの『Yankee Hotel Foxtrot』にも似た無機質な美しさに浮かび上がる明かりが加わって「光の葡萄」という曲のアイコンに相応しいと思いました。これを幾重もの紙を重ねた特殊パッケージで作れたりしたら最高でしょうね。
ということでべらべらと勝手に総評みたいなことを書き連ねてきましたが、どの作品にも気持ちがこもっていて僕はそれらを並べ見て感動しました。うまい下手、良い悪いという観点は作品の価値には関係ないような気がしています。とても有意義な時間だったのでまたこの企画の次回があれば僕もまた参加したいと思いました。短期間にこれだけ充実した展開を可能にしたミルブックス藤原さんと福田さん、そして忙しいなかで頑張った皆さんに感謝と感嘆を。またどこかで合流しましょう!