朝起きてニュースを見たら新潟は嵐や雷の荒天だと天気予報が言う。朝食を食べていると窓を叩くような大粒の雨が降ってきた。「さすがに昨日が晴れすぎたのだなあ」と残念に思い、チェックアウトを1時間伸ばそうとしたら朝一番に燕市入りしたアアルトコーヒー庄野さんの「いい天気!」というツイート。あれよあれよという間に晴れてきて驚きながら新潟散策。
まず前日に圧倒された中古盤屋キングコングで小一時間。あれだな、僕はレコード屋と本屋が充実してる街なら文句も言わず過ごせるのだな。古町通はドカベン通り、いたるところに銅像が。薦められたピア万代へ行くとすごい賑わい。魚も肉も野菜もたくさん。弁慶という回転寿司屋の美味しさにため息をつきながら昼ご飯(僕の熱弁により翌日庄野さんも行くことになる)。
午後3時にもなると夕暮れ色の空気の色。一路燕市に向かう。空には雲が停滞しているがそこかしこに穴が開いていて傀儡の糸のような、天使の梯子のような光線が稲穂に降り注ぐ。燕市は絵に描いたような地方都市だが同じような佐賀県の田舎出身の僕には懐かしい風景。そこに流麗なデザインのきれいで広々としたヘアサロンがあらわれた。そのヘアサロンに併設してオープンするのがこの日の目的地ツバメコーヒーだった。
音響機材のないこのスペースでは東京から持っていったセルフPAシステムでの演奏、もう手慣れたものだ。美容室側、待ち合いスペース、エントランス、いろいろな選択肢のなかから独立した小部屋のような空間をステージに選んで準備。11月1日のオープンを前に行われるお披露目的なプレオープニングイベント。エントランスでは三条市から「くぅ象」さんがご飯を用意しツバメコーヒーの豆を使ったドリンクやビールなどを振舞ったり。庄野さんは忙しくコーヒー教室を開催、僕はそれを眺めていました。
どれくらいの人数集まるのかまったく未知数だった夜のライブでしたがとてもたくさんの、部屋にいっぱいのお客さん(僕のリハの歌声を聴いて帰るのを遅らせてライブを観てくださった方もいたそう)。街を車で流して脳裏に流れた「夕暮れ田舎町」を急遽セットリストに。おそらくほとんどの方が僕の演奏を初めて聴く方たちだったと思うのだけど会話をするように90分のライブを楽しく過ごすことができた。
ロープウェイで登れる弥彦山のことを教えてもらったので「やまびこの詩」をみんなで。とてもキレイなこだまの響き。庄野さんのために「アップダイク追記」を。DEAN&DELUCAではまだ「アップダイク追記」という名前のコーヒーを売っているだろうか。そして好きなことを追求して豆を焙煎しツバメコーヒーを立ち上げた田中さんのために「coffee」を生音と生ギタレレで、手拍子も自然発生。とにかくどの瞬間も忘れがたき夜となりました。来られてよかった。
終演後、たくさんの方と握手とサインをしながらおしゃべりができて楽しかった。「ホントにまた来てくださいね」という声が嬉しい。それからツバメコーヒー田中さんを中心にしてアアルトコーヒー庄野さんと僕、そしてデザイナー大塚いちおさんを交えての座談会が始まった。大塚さんは地元出身の縁もありツバメコーヒーのロゴをデザインされた。NHK「みいつけた!」のアートディレクション、話題のドラマ「ゴーイングマイホーム」のロゴデザインや是枝監督との絵本「クーナ」など素晴らしい手腕、お会いするのを楽しみにしていたのだけど、とても素敵な方でした。
珈琲豆焙煎家、デザイナー、ミュージシャンというそれぞれの立場から空間や作品などの“ものつくり”を語るという時間でしたが、それぞれの立場での意見が同じだったり少しずつ視点/支点が違ったりするのがとても面白く、頭のなかが撹拌されるような心地の良いディスカッションでした。気づくともう23時近く、この日も長く楽しい一日。
会場でドリンクをサーブされていた「noa noa」のお店でお疲れさまの乾杯。庄野さんもザルのように飲み、僕も明日歌わなくていいし、とビールを何杯も。ひとくちいただいた八海山のしぼりたて原酒というのがフルーティーでしびれる美味しさ。庄野さんはその瓶を抱えてホテルの部屋へ消えていきました。ツバメコーヒー田中さん、そして遅くまでつきあってくれたスタッフの山田くんに感謝。この縁をつないでくれたのは巣巣での庄野さんとディモンシュ堀内さんのコーヒートークイベントでした。手を伸ばして人と人がつながるだけつながったらいいなあ。飲み過ぎて泥のようになった夜にそんなことを思っていました。