前日のバレンタインデイから雪とのにらみ合いは始まっていた。車に音響機材や複数の楽器を積んで大阪倉敷と旅をする予定だったのだけど2週連続の雪で果たして辿り着けるものか。タイヤ用のチェーンを準備、しかし雪かき用ショベルはどこも売り切れ。「日付が変わる頃には雨に」とか「歴史的な大雪に」などと情報は錯綜、とりあえず朝3時半に目覚ましをセットして仮眠、その段階で車で行くかどうかの判断をすることに。そして目覚めたら東京の街はホワイトアウト。チェーン装着した車は雪で埋まってしまった。ただちに関西方面への飛行機のチケットを確保、再び仮眠して早朝の交通情報で最終決断することに。
朝、ほとんどの交通機関が麻痺、羽田空港まで辿りつけないということで飛行機をキャンセル。昼頃になると井の頭線と山手線が動くようになった。大阪倉敷とも音響設備のない会場でのライブなのでマイクにアンプ、ケーブルからマイクスタンドからなにもかもを持っていかないといけないのだけど駅まで歩いていかないといけないのでとにかくギターと最小限の荷物だけをパッキングしなおして真っ白な雪の中を歩き出しました。去年の大雪の後に巣巣で買ったフィンランド軍用長靴がこんなに頼りになるとは。
雪道は険しく至るところで雪かきをする人たち。不謹慎ながら戦後の焼け野原もこんな感じだったのかな、などと先週に引き続き思った。すでに雪の溶けた大阪にこの格好で行くことがどんどん面白くなっていく。吉祥寺はアップルストアのスタッフが雪でリンゴの像を、渋谷ではハチ公のまわりに雪のハチ公がもう2匹いました。新幹線に乗る直前に加古川チャッツワースの岸本さんから「今日のライブどこだっけ?ミリバール?なにか手伝おうか?」とメール。生音でのライブを覚悟していた僕の気持ちを鼓舞する申し出に甘えて機材を持って加古川から飛んできてくれることに(土曜日なのに15時でお店を閉めて)。新幹線からの車窓、少し走っただけで雪は跡形もなく消え、自分の足元のごつい長靴を眺める。なんだか前日からずっと移動しているような感覚だ。
果たして大阪へ到着。あんなに雪に翻弄されながらもミリバールに到着したのは予定ぴったりの17時。しかし前日のうちに車で出発する選択をしていたらこの時間に僕はここにはいなかった。チャッツワース岸本さんも合流して完璧なサウンドシステムでセッティングができました。飛び入りゲストは黒沢秀樹さん。そしておなじみ京都からははの気まぐれ川本くんもカホンを持って駆けつけてくれました。そして何より満員のお客さん。本当に嬉しかった。やっぱりライブは生き物で、2度として同じライブはない。
「レモンひときれ」で始まったライブ、冬の歌を中心に。ようやく万感の思いをこめて「北風オーケストラ」をこの冬初めて歌うことができました。リクエストを募っていたので久しぶりに歌う曲がいくつもあった。タンスの奥にしまってあった歌に風を通すような思い。さすがに移動でくたびれて声がかすれたり裏返ったりしたが、お客さんに向かって歌うのがこれほど嬉しい夜も久しぶりのような。「何もない人」にリクエストをくれた人が「初めて聴いたときに大瀧詠一さんの『LONG VACATION』に入っていそうな歌だと思った」というコメントを添えてくれたので大瀧メロディを歌うコーナーを。ここで飛び入りゲストの黒沢秀樹さん登場。
前週、下北沢での黒沢さんのライブでも一緒に歌った「冬のリヴィエラ」、そしてバレンタインデイの翌日だということで『ナイアガラ・カレンダー』のなかから2月の歌「ブルー・バレンタイン・デイ」をカバー。黒沢さんとはMCでのトークも噛み合ってとても有意義なセッションに。少し休憩を挟んでから未発表曲やリクエスト曲、そして「それを運命と受け止められるかな」をチャッツワースに捧げました(昨年末にチャッツワース夫妻の車で聴いた自分の歌に心を動かされることになったので)。
アンコールでは再び黒沢さん、そしてはは気ま川本くんも参加して「Endless Harmony」と「一角獣と新しいホライズン」。様々な音と声が重なる贅沢な空間でした。そもそも大阪でのライブが決まったのも1ヶ月を切った先月で、バタバタしたスケジュールに嫌な顔ひとつせずに対応してくださったミリバール奥山さんにも大きな感謝を。黒沢さん、川本くん、チャッツワース岸本さんにたくさんのお客さん。「ひとりじゃないって素敵なことね!」と思った長い長い一日でした。