




前日の最終リハーサルは終わったらみんな(特に僕)言葉も出ないほどくたびれていたのですが、明けて本番当日お昼の集合時間にみんなそろってオンタイム、スピーカーやアンプ、ドラムセットからすべてを運び込む肉体労働からスタート。PAを担当する古賀くんは後輩のタリオくんも連れてきてくれて息のあったコンビネーション。舞台上立ち位置の変更や音響を試行錯誤しつつ15時から音を出し、その半球状の空間の独特な響きを見上げました。実際に星の投影をしながらのリハーサル。暗転したときのみんなの「わー!なんも見えない!」という嬉々とした声も7年ぶりのものでした。





“夜の科学オーケストラ”とはいつごろからか“夜の科学”というイベントでバンド編成で演奏するときのために大げさに付けたバンド名でしたが、この日は6人のプレイヤーに囲まれて本当に自分が指揮者になったような気分でした。チガちゃんがアルコ奏法(弓で弾く奏法)のコントラバスの低音、五十嵐くんと上野くんの鍵盤ハーモニカ2重奏、真里さんのグランドピアノ、イトケンさんのキックスネアとタムタム、安宅くんのペダルスティールやマンドリンがいろんな角度から耳に飛び込んでくる感覚。ああ、始まったら終わってしまうなあ、こういうのを時間芸術というのだなあ、とリハーサルの時点で感極まるほどでした。慌ただしく開場準備、ロビーでは物販もスタート。
星の演出に関しては「この曲は“青の世界”で」とか「この曲中に夕暮れから夜へ」、「この曲では月が昇りたいです」「この曲では流れ星を」「この曲は・・・センスでお任せします」というざっくりしたリクエストを担当の星さん(プラネタリウムホールの星さん、本名!)に伝えて、一回の通しリハのみでトライしていただいたのだけど、演奏中星空を見上げながら感心してしまうほど素晴らしいタイミングで次から次に星の物語が進んでいきました。少しずつ微調整しながら本番に挑みます。



開演前の影アナ、「本日はご来場いただきまして…」のアナウンスはこの日出席が叶わなかったベーシスト海老沼崇史による渾身の録音。「ああ、僕も出たかったですよ」のため息で会場がくすっと笑った。開演時間を少し過ぎてメンバー7人がステージへ。ライブは僕の朗読に導かれるように始まり、進んでいきます。7年前のプラネタリウム公演と同じスタイルですが、物語は時間の経過とともに深みを増したと思います。3月前半に原稿を書き(そのうちの2篇は7年前に書いたのと同じものを再現しました)録音した音源、パンフレットを兼ねたMONOLOGにはその音源を収めたCDをつけました(ライブでは使用しなかったエピローグも含まれます)。





本番中の写真はほとんどありません。暗くて全然映らないのですよね。朗読「dusk〜夕暮れ」に導かれて始まったのは「watercolor suite」、7年前にも演奏した古い歌。「blue moon skyline」で夕暮れから日の入り、途中で西の空がぐるっと回転して南の空に変わりました。「星に輪ゴムを」「home sweet home
」も7年ぶりにこの空間で鳴らす音。時間の蓄積で響きが変わりました。小学生のときに書いた詩を元にした「夜のカーテン」を満天の星空の下で歌うことになるなんて思いもしなかった。「一角獣と新しいホライズン」の前に一度まったくの暗闇の時間を。みんなが息を飲む音が聞こえた。
「一角獣と新しいホライズン」を演奏していると星空に次々と絵が浮かび上がりました。僕は見ることができなかったのだけど「太陽と満月」の「君は小さなライオン」というフレーズのときに獅子座の絵が浮かんだそうです(終演後に星さんは「夢の中の物語みたいな曲だなーと思ったので妄想的に南半球の星座にしてみました」と笑って話していました)。その「太陽と満月」の間奏で上野くんが吹いたパッヘルベルの「カノン」のメロディに僕がニヤッとしたのは暗闇の中で誰かに見られていただろうか。僕の中でのハイライトのひとつが「月あかりのナイトスイミング」でした。真里さんのグランドピアノ、チガちゃんのコントラバス、上野くんのフルート。この日演奏するために書いたのではないかというくらい空間と音楽がひとつになる瞬間でした。
前回からの7年間の間に夜のシーンを描いた歌が多くなって、確実に7年前よりもコンセプチュアルな2時間になったと思います。「光の葡萄」も星空の下に光るネオンや高層マンション群を想像させたし、なによりもうひとつのハイライト「星降る街」(7年前は「ホシフルマチ」と表記していました)、ピアノに導かれて歌がどんどん大きくなっていき、無数の流れ星が天空に流れるのを見上げていました。すごかったな、あの時間は。「hanalee」が終わるころには右も左も見渡すかぎり茜色のそらでした。


最後の歌「距離を越えてゆく言葉」が終わるまでの時間がゆっくり流れるようでいて、しかしあっという間のステージ。全国各地からたくさんのファンの皆さんが駆けつけてくれて(同じように全国でこの公演に思いを馳せてくれているファンがいて)0からを積み上げていくようなコンサートを終えることができました。“三毛猫座”セットもTシャツも予想を超えるほどご購入いただきました。ありがとう。終演後のサイン、じゅうぶんな時間が取れずにごめんなさい。今後のライブにMONOLOGでもクリアファイルでも持ってきてもらえたらいくらでもサインしますので。21時完全退館というルールがあったので光の速さでライブを観にきてくれた友人たち総出で撤収、奇跡の30分間での片付けが完了したのでした。惜しむべくはあの、プラネタリウムホールへの天空廊下でみんなで記念撮影をできなかったこと。
北とぴあプラネタリウムホールは今月いっぱいで閉館するのですが、投影機そのものは設置したままで半球体の貸しホールとしては続いていくそうで、演者側や観客側からの熱烈なラブコールを送り続けたらひょっとしたらなんとかなるのではないか、と希望的観測を持ちたい。地下駐車場の係のおじさんは「あんたら楽団かい?最後の31日までずっと演奏してくれよ。なくなるのは寂しいよ」とこぼしていました。奇しくも3月26日あたりは卒業式が各地で行われた日、多分1996年のこの季節に僕は大学の卒業式で同じように北とぴあのホールにいました。桜が咲き始める東京で、多分ずっと忘れられない一日になります。
また星空の下で歌い集えたらいいですね。
2014年3月26日@王子 北とぴあプラネタリウムホール
“夜の科学 extra〜星空ナイトスイミング”
出演:山田稔明
with 夜の科学オーケストラ
itoken、安宅浩司、五十嵐祐輔、上野洋、千ヶ崎学、佐々木真里
ご来場ありがとうございました!




