2014年06月20日

「Qui La Laの夏物語」にまつわる物語



イラストレーター中村佑介くんのイラストのために歌詞を書く依頼を受けたのが今年の2月、東京に大雪が降る前のことでした。編集を担当するのが2000年に一緒に『cobblestone』の小説やパンフレットなどを作った清水浩司さん(著書「がんフーフー日記」が映画化決定!)であるという縁深い繋がりにも驚きながら僕はその仕事を快諾するわけですが、続いて届くメールには歌詞を書くにあたって参考になるようにと、“きららちゃん”という架空のキャラクターについて「書店系の文系アイドル」というざっくりとしたキャッチコピーと、詳細に書かれた彼女の履歴書が添付されていました。それによると彼女は東京三鷹市の下連雀に住む18歳で、「東川篤哉から安部公房、横溝正史からサガンまで乱読気味」な文学少女らしい。それで、最初に僕の頭に浮かんだのが下連雀の禅林寺の、森鴎外の斜向かいにある太宰治のお墓のこと、そして6月19日の桜桃忌でした。近所に住んでいる“きららちゃん”が桜桃忌に手を合わせにいかないはずがないのです。僕が選んだ中村くんの絵は季節は夏、猫の耳をつけた女の子が金魚鉢や風鈴と一緒に描かれたものでした。

そして翌月3月17日にだれもいない静かな禅林寺の太宰のお墓の前まで行ってみたのです(その日のブログ)。その段階ですでに「雨降り/水無月/桜桃忌も過ぎて」という言葉とメロディはできあがっていて6月後半から7月の歌という設定にしました。僕は作詞作曲家として歌を作ることが主たるソングライターなので言葉だけを書くよりも歌詞とメロディをふんふんと歌いながら一緒に作るほうが得意です(「曲はどうやって?」と訊かれると「同時です」と答えるのはそういうことです)。禅林寺から帰る道すがら生き生きとしたリリックがするすると連なっていき、それはとても楽しい作業で、結局AメロからBメロ、そしてサビと一気にできあがり、あとはひたすら推敲して「Qui La La の夏物語」がついに完成します(提出したのは北とぴあプラネタリウム公演の前日3月25日でした)。その時点でリズムもメロディもできあがっていて、個人的には15年前にGOMES THE HITMANがリリースした『weekend』収録の「ストロボ」を2014年に更新するようなイメージが浮かんでいました。

「きららちゃん」の見本サンプルがポストに届いた日に中村くんに完成お祝いのつもりで僕は自宅作業部屋でデモをさっと録音して(楽しい作業でした)MP3を送るととても感動して喜んでくれたのでもっと喜ばせたくて、“きららちゃん”の少女性を付け足すために唐津からレッスンと曲作りのために上京してきていたガールズバンドたんこぶちんのまどかちゃんに来てもらってユニゾンとハーモニーの歌を重ねてもらった(その日の日記)。なんと偶然にも彼女は“きららちゃん”と同じ18歳なのでした。そして素材をまとめて3rdアルバム『新しい青の時代』すべてでミックスを担当してくれた手塚雅夫さんに託し、キリッと音を整えてもらいました。その音源を小学館の方がリリックビデオにしてくれたのが上の動画です。楽器演奏はすべて僕、ボーカルに関して僕が一箇所「太宰ならこう言うわ」という女性言葉が恥ずかしくて「太宰ならこう言うさ」と歌ってしまっていますが、そこは申し訳ない。本当ならキー合わせをして全編まどかちゃんに歌ってもらいたかったのだけど、若々しい可愛らしさはふんだんに加味されていると思います。「これなんって読むんですか?」と桜桃忌を知らないまどかでしたが、太宰に惹かれはじめるのはきっとみんな18歳を過ぎたあたりなのではないでしょうか。そして昨日の桜桃忌、ファンが集いさくらんぼがたくさん供えられた墓石に「こういう歌詞を書きましたので」と報告したところでした。発売予定もなにもない、しかし今年の夏のキラーチューンになりうるような良い曲だと思いませんか?何回でも聴いてもらえたら嬉しいです。


Qui La La の夏物語/山田稔明 feat. MADOKA(たんこぶちん)

小学館|きららちゃん

Posted by monolog at 16:32│Comments(0)TrackBack(0)

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