2014年から15年へ、長らく経験のないポチのいない年越しでしたが、同時にポチ実との初めての年越しでもありました。毎日なにかしら面白いことを提供してくれるポチ実のおかげで新しい1年はコロコロと転がるようにグルーヴしていきます。三が日を過ぎて、ポチが夏に天に昇った深大寺まで出かけて厄祓い。ほろよいのお正月が終わり日々の日常が戻ってきた、と思った途端にまた我が家は騒がしくなりました。ポチ実が発情したのです。
こうなることは最初からわかっていました。かかりつけの獣医さんとも「年明けくらいには避妊手術しましょうね」と相談していたのです。しかし前日まで可愛い顔して駆け回っていたポチ実が「ワオーンワオーン」と独特な声で鳴き始めたのを聞いたときに僕は心の準備ができていなかったことを思い知らされました。まだまだ仔猫だと思ってたなあ…。一般的に野良猫よりも飼い猫のほうが先に発情期を迎えるらしく(野良猫の15〜18ヶ月に対して飼い猫は5〜8ヶ月だそうです)タイミング的にもポチ実は適齢期。前述した「ワオーンワオーン」という変な鳴き声、そして落ち着かない様子、さらにはローリング行動と呼ばれる身体をくねくね床にすりつけながら伸びたり強張ったりする動作、そして胸と腹部を床に着けて後ろ足を体よりも後ろにして垂直に立ておしりを突き上げる姿勢、これを「ロードシス」と呼ぶそうなのですが、まさに「ああん!アタシどうにかなっちゃいそう!」みたいに唸るポチ実を目の前にして僕はあわあわと慌てて彼女の後ろをついて歩いて、抱き上げたりおしりをポンポンと叩いて気休めの刺激を与えてまる2日を過ごしたのです。
以前ポチがさかったときのことを思い出します。日記を振り返ってみたら2002年の2月、今から13年も前のことでした。「夜眠れないくらいポチが鳴くようになった。本当に赤ちゃんが泣いているような声で鳴き、目がギラギラしている。腰の辺りをなでてやると吐息のような声。僕のかばんやらスニーカーやらにおしっこをするようになってきたが、怒るに怒れない」との記述。そう、怒ることなどできないのです。猫の生理現象に対して僕ら人間は避妊手術を選択し、その一生について責任を負うことになります。ポチはこのとき2歳でした。ポチはこれ以前に迎えた発情期のときに子どもを産んだことを後で知りました。なのでポチのさかり方とポチ実のさかり方は全然違うものに感じられました。ポチ実はとにかく自分の身体になにが起こってるのかわかならいという感じで、「ワオーンワオーン」と何かが憑依したようになって、僕が「ポチ実!」と呼ぶと我に返ったように「ニャーン」と可愛い声で鳴いて困惑したみたいなふうな顔をする。病院に相談して夜の9時から食事を断って、翌朝からは水も飲ませないようにして(全身麻酔をするので胃を空にしておかないといけません)避妊手術を行うことに決定したのが昨日のこと。
身体が火照ってしかたないうえにおなかまで減ってしまったポチ実はますます声を大きくして僕を悩ませます。ある猫友だちが「ポチ実と疑似恋愛するのがいいよ!」とアドバイスをくれました(そこの雌猫は15歳になるまで避妊手術しなかったので男性がおしりをポンポン刺激して妊娠した気持ちにさせるという技で発情期を乗り越えてきたらしいのです)。僕は覚悟を決めてポチ実の「ワオーンワオーン」を受け止め、おしりをポンポン叩いたりさすったりして、僕もポチ実もクタクタになって朝を迎えたのでした。寝ずにポチを看病した季節のことを思い返したりしつつ。
そして今日、朝になってポチ実を獣医さんへ連れていきました。ブルブル震えて診察台に乗るポチ実を見るのは辛かったけど、これからの長い人生のために頑張ってくれ、ポチ実ちゃん。先生に託して入院と手術。家に帰るとシーンと静まりかえる空間。寝てなかったので横になればすぐ眠れるだろうと思ってもポチ実が心配で全然眠れなくて、ここ数日分の掃除を。夕方近くに病院から連絡があって、無事に手術は終わり、全身麻酔からも醒めたとの連絡に安堵の落涙。猫エイズと猫白血病の検査も問題なしとのことで、これでポチ実のこれからの人生のためのお膳立てができたように思います。人間の勝手でいろいろ申し訳ないなと思いつつも「おれはおまえの最期までずっと付き合うよ」という揺るぎない気持ち。ポチ実の生涯唯一の彼氏は僕、ということになります。
今晩は経過観察のために入院なので去年の9月9日以来初めてポチ実のいない夜を過ごしています。明日の朝迎えにいくのが待ちきれない。猫騒動はまだまだ続きます。