2014年末にファンへのホリデイギフトのようにリリースされたR.E.M.6枚組のDVDボックスはR.E.M.がデビューから2011年の解散に至るまで彼らがMTVチャンネルに残した映像をまとめたファン垂涎のアーカイブ集だった。その膨大な量、僕はまだ半分しか観ていないが「REMTV(R.E.M. by MTV)」という2時間のドキュメンタリーだけをピックアップして日本盤がリリースされることになった。R.E.M.の映像作品を日本語字幕で観ることができるのはレアなのでとても嬉しい。
真夜中過ぎになんとなく観始めたそのドキュメンタリーに僕は始まりから終わりまで見入ってしまった。R.E.M.が80年代以降のアメリカ音楽シーンにおいてどういう存在だったかを存分に知らしめる非常に素晴らしいものでした。時間軸に添って進む物語とメンバーの容姿の変遷、初期衝動、迷走、大躍進、葛藤、政治との関わりなど大筋では理解していても映像と本人たちの言葉で語られるその歴史は圧倒的なものだった。R.E.M.を好きでよかったなあと思ったし、R.E.M.をあらためて好きになりました。
僕は中二の14歳のときにR.E.M.と出会って(インディーズ最後の『DOCUMENT』というアルバムだった)「マイケル・スタイプの歌はもごもごしていて英語がネイティブな人間にも理解ができないのだ」という記事を読んで、それなら英語のわからない僕も同じように聴けるはずとむさぼるように心酔し、R.E.M.が政治や環境問題を語れば僕も「そうだ、そうだ」「酸性雨だ」「投票だ」と頷いてにわか勉強をした。その中二病の熱、火種が25年以上経っても消えないのがすごい。
マイケル・スタイプの話す声は僕にはマントラのように聴こえるから、その意味を理解するよりも先にその響きに聴き入ってきた。『DOCUMENT』『GREEN』『OUT OF TIME』『Automatic for the People』はすべての曲をそらで歌えるがその意味を考えたことはあまりなかった。音楽的に直接影響を受けたこともなかったと思う(「月あかりのナイトスイミング」は別にして)。それなのになぜ今でも変わらずR.E.M.が自分のなかでナンバーワンの存在なのかの答えが、このドキュメンタリーを観てわかったような気がしました。このバンドはとにかく得体が知れないのです。意味深で不可解で暗くて、しかし優しく可笑しく誠実なのですよ。
僕はこれからの人生のなかで、そして老後の楽しみとしてもう一度歌詞をじっくりと読みながらR.E.M.のレコードを何回も聴こうと思います。持ってないレコードがあれば値段も見ないで買うしブートレッグだって例外ではない。本ドキュメンタリーの最後のほう、ロックの殿堂入りの式典でパール・ジャムのエディ・ヴェダーが語るのがとても愛あるコメントでいつ聞いても楽しい(その日本語訳がCDジャーナル2011年10月号に掲載されて、この特集号には僕もたくさん寄稿しています)。そしてマイケル・スタイプのスピーチで披露した、彼のおばあちゃんが晩年彼の手を握って語った言葉も素晴らしい。「私にとってはR.E.M.の頭文字は“Remember Every Moment(すべての瞬間を忘れない)”なのよ」。僕もR.E.M.から受け取ったすべてのものをずっと憶えておく。
僕が「最初の1枚はこれ」とか「ベストなのはこれ」とか言うよりも、このDVDを観るのが一番いい。
それであなたや彼や彼女がR.E.M.に興味がわかないのならもう聴く必要はないのかもしれない。「REMTV」はそんな作品です。