高野さんと話すのは楽しい。なにかひとつのことを話していると他の話題にまたがって、また違う話につながっていく。当たり前の会話だけど、そういう「当たり前」を10年先を歩くポップスの大先輩と交わすことが嬉しいし、その会話は僕の糧になる。練習ではカバー曲を「これ結構むずかしい」と言いながら苦戦したり、しかし他の曲は確認程度でさらっと一度流しただけで本番へ。満員御礼、全国からたくさんのお客さんにご来場いただきました。写真を撮ってくれたのは「おばあちゃん猫との静かな日々」の著者でありカメラマンの下村しのぶさん。1年前にはまったく面識もなかった下村さんはこの一年の間に愛猫ポチと下村さんちの照枝さんが繋いでくれた縁、デビュー当時から高野さんのファンという下村さんの写真とあわせてレポートを。

「どこへ向かうか」で始まって春の新生活のBGM「思うことはいつも」は15周年の歌。久しぶりの「一角獣と新しいホライズン」の曲紹介にも皆さん聞き耳をたててくれて嬉しかった。前日に観たジャクソン・ブラウンの姿が高野さんと重なった、という話から僕が10年前に書いたジャクソン・ブラウンへのオマージュ「星に輪ゴムを」を歌うころには日が暮れた隅田川の水面に照り返す星が見えた気がしました。新曲の「my favorite things」は毎回とても評判がいい。楽しくて飛ばしすぎて途中で唾がノドに入って声が裏返るときがありましたが、僕の静かに高ぶる感情とリンクしていたような気がします。「光の葡萄」をこの日歌えて嬉しかった。スカイツリーが光を乱反射させるこの界隈もお台場高層マンション群同様に光の葡萄みたいだから。
そして高野さんをお迎えしてのセッション。「こないだ夢を見たんです…」から始まる僕の告白(ここには書きません)を経ての「太陽と満月」、高野さんのTaylorのホロウボディのギター(あれはThinline Fivewayというやつかな)がとても心地いい音。そしてカバーは小沢健二「いちょう並木のセレナーデ」をリクエスト。昨年末に大阪で「いちょう並木」を歌ったときにあるファンの方から「高野さんのバージョンも素晴らしいんです」と言われて「それ聴いてみたい!」と思ったのです。高野さんは「ほんの数回しか歌ったことないのに」と驚いていましたが、とても貴重な「いちょう並木」になりました。




高野さんのライブも季節感のあるセットリストで素晴らしい時間だった。この時間が終わるのがさびしいなあと何度も思いました。「エーテルダンス」を聴きながら隅田川を行く船とスカイツリーを眺める贅沢よ。ライブハウスやカフェとも違うNAOT TOKYOでのライブは独特な空気感がある。本編が終了して、再びセッション。トリビュート盤でカバーさせていただいた「夜の海を走って月を見た」、リハでは僕はハーモニーだけだったのが、また本番で「山田くん、2番歌ってもらおうかな」と予定調和にならないところも高野さんらしく、僕もハーモニカと波の音が出るパーカッションで応戦、初めてのスタイルで演奏しました。「夢の中で会えるでしょう」はもうすでにポップスクラシックだなあと感じる。空気がぱっと変わる。
大団円で終演、かと思いきやダブルアンコール。「なんか一緒にやれる?」「確かな光いけます!」ということで4年目の3月に高野さんと奏でる「確かな光」は格別な感慨がありました。NAOTの宮川さん(同い年)も幸せそうな、良い顔していたなあ。僕も幸せでした。窮屈ななかでいい雰囲気を作ってくれたお客さん、NAOTスタッフ、下村さん、いろいろ手伝ってくれた友人知人、そして高野さんに大きな感謝を。楽しい打ち上げまで含めて充実した一期一会の一日でした。


photo by Shinobu Shimomura




