




7月7日に発売になる山田稔明『the loved one』全曲解説の3曲目は「ポチの子守唄」。ポチとは僕が2001年から13年暮らしを共にした愛猫、三毛猫の雌である。1年前の6月最初の2週間、僕はとても詳細な看病日記を書いているのだけど、1年前の今日はいよいよポチの具合が悪いほうに折り返すタイミングの頃。吐き気がひどいポチの首の下に左手をまわし、右手で背中を撫でながら夜が明けるのを待つ夜の連続。満月の晩を境にどんどん容態が深刻になっていったポチと僕にとって夜は忌み嫌うべき時間帯でした。その不安をなだめるように僕はポチのために歌を歌ってあげました。
両手でポチを介抱しながら話しかけるように歌ったその旋律はやがて一定のリズムを持ち、言葉がついてきて、3バースの歌になった。ポチがいなくなった後でその小さな歌に僕は「ポチの子守唄」というタイトルをつけてステージで歌うようになりました。2ヶ月違いで同じ空の下で(文字通り数百メートル離れたご近所で)愛猫マルオを亡くした近藤研二さんとの縁がつながって、この歌のアレンジをお願いすることになるのは必然だったのかもしれません。僕のボーカルトラックのメロディだけを聴いてコードとフレーズで肉付けされた「ポチの子守唄」はささやかなフォークソングから立体的な室内楽に昇華したのです。
2月頃から編曲作業が始まった「ポチの子守唄」は3月のモナレコードでの「ひなたのねこ」展で初お披露目(写真下)、5月に入って近藤さんのガットギター、上野洋くんのフルート、海老沼崇史くんのウッドベース、安宅浩司くんのペダルスティール、そして最後にイトケンさんのグロッケンシュピールとパーカッションが加わって完成します。イトケンさんは僕の留守中のポチのお世話をずっとお願いした恩人。近藤さんのギターも魂が奏でるような静かに熱を持った音。歌入れをするときも木々や葉っぱのさざめきや風の匂い、紫陽花が揺れる庭が見えるような感覚がありました。ポチと向き合って捧げた歌ですが、これが世に出てすべての愛すべき対象へ届くような普遍的な歌になったら嬉しいなと思います。


2015年6月19日発売(全国流通開始7月7日)
GTHC-0007 定価2000円(税別)
1.my favorite things
2.太陽と満月
3.ポチの子守唄
4.些細なことのように
5.small good things
6.猫町オーケストラ(album mix)
『the loved one』プレオーダーはこちらから。