
初めてのCDができたとき両親はそれなりに喜んで、何十枚も買い込んで親戚や知り合いに配ってまわっていたけれど、それが20年近く経つと新作が出ても「あら、そうね」と全然興味を示さなくなります。しかし本、ましてや小説となると“威厳”のようなものがあるのか、出版報告をすると(父も母も小説中に登場するので伝えざるをえなかったのです)「へえ!」と父母とも驚き、「あのお笑い芸人の人のようにベストセラーにならんやろか?」と父母ともに言い、『火花』の市井への影響力の大きさを再認識したのです。
そしてついに本が完成したので一足先に両親に贈ったら、すぐに電話がかかってきた。父はまず「誤植があるぞ」といい、主人公が“稔明”の名前ではないことを指摘。エッセイだと思って読んでいたのでしょう、いろいろ説明して納得してもらい、「お父さんがいっぱい売っちゃるわ」と言う。で、今朝早くに何回も母親から電話がかかってきて「あんた、誤植があるよ」とまた言うので聞けば「サクラの木」が「サワラの木」になっとるばい、と。しかしそこは僕は「サワラの木」のことを「サワラの木」と書いたわけで、そう説明するとオカンは安心したように「あら、そうね」と言い、「お母さん、もう50冊知り合いに売ったけん全部サインいれてはよ送らんね」と言い残して電話を切った。多分、誤植の妖精というのがこの世界にはいるので、誤植のない本など存在しないのだ。僕はすでにひとつ脱字を見つけたから早く増刷になって修正できたらいいなと思う。
本を作ってみて、こんな小さな字をもう父も母も読めなくなったり読まなくなったりしてるのではないか、とか、小説を最後まで読むような集中力をもう年寄りだから持ち合わせてないのではないか、とかいろんなことを考えたのだけど、あっという間に読み終えた両親の声を聞き、CDと違って再生装置が要らない本というのは数千年も続く根源的なエンタテインメントなのだなと当たり前のことを改めて思ったのです。ちゃんと感想を聞きたいような、聞きたくないような。しかしちょっとした親孝行にはなったのかもしれません。
さて、本日発売のCASA BRUTUSの「LIFE@PET」というページで愛猫ポチ実が紹介されています。丁寧に取材をしていただき素敵なページになっています。ぜひ書店、コンビニで手にとってみてください。

猫と五つ目の季節 山田稔明
出版社:ミルブックス |2015年11月3日 発売 価格1300円(+税)
四六版 ハードカバー 176ページ ISBN978-4-902744-79-8 C0093
近日中にオフィシャルサイト通販にてプレオーダー受付を開始します(特典カード付)