
九月に入ってすぐの朝だった。前の晩は下北沢でライブがあり、夜遅くまで音楽仲間と打ち上げをして少し飲み過ぎた。寝ぼけた目をこすりながらリビングのブラインドを引きあげると、サッと小さな影が視界を横切った。目を凝らすと、紫陽花の木陰に身を潜めてこちらの様子をうかがう子猫の姿が見えて、僕はいっぺんに目が覚めた。
ガラス窓を爪でトントントンと叩くと、子猫はさらに目をまんまるにさせて警戒した。そして恐る恐る木陰から這い出てきたその子猫を見て、僕はびっくりしてしまった。大きさからすると生後ニ、三ヶ月というところだろうか、それはポチに瓜二つの三毛猫だった。
「信じられない・・・」
思わず口をついて出るひとり言。茶、黒、白の毛、そしてきれいな縞模様、小さな身体、尻尾はすらっと長い。僕は夢でも見ているのかと思ったが、これは目の前に起きている現実だ。ガラス越しに携帯で写真を撮るとそのシャッター音に驚いて、子猫はするすると器用に木を登ってコンクリートの塀に飛び乗り、その塀をスタスタと伝って歩き去って見えなくなった。
僕は携帯のスクリーンに写った子猫の姿を見つめた。指先で画像を大きくしたり、明るく加工してみたが、見れば見るほどポチにそっくり。写真集の中の小さな頃のポチが、表紙から抜け出してきたかのようだ。
小説『猫と五つ目の季節』152ページからの抜粋、これはすべて脚色なく2年前の今日9月2日のことをそのまま書き綴ったシーンである。下北沢leteでのライブの後、一緒に打ち上げをしたのはシンガーソングライターの高橋徹也さんで、あらためてポチへのお悔やみを伝えてくれて「優しい人だな、この人は」と思った記憶がある。奇しくも一昨日が下北沢leteライブだったから季節感とか空気の心地も甦ってくる。あれから2年が過ぎたが、あっという間のようでもあり、長い長い充実した時間のようにも感じる。猫が僕より4倍早い人生を送るから、なるだけ時間がゆっくり進んでほしいなと願っている自分もいる。この日の奇跡みたいな出来事がなければ今の日常は全然違うものになっていただろうな。
朝起きて庭に出たら、庭先のフェンスのところにお隣のノアちゃんからの手紙とアジサイの花がプレゼントとして置かれていて「わあ!」と歓喜の声が出た。あの日以来、ポチ実は数えきれない出会いと繋がりのもととなった。ファンの皆さま、いつもポチ実に言葉や贈り物をありがとうございます。家を庭を駆けまわって悪さをして困らせるポチ実をしかってばかりの毎日ですが、今日は特別に感謝を捧げる一日にしたいと思います。9月2日はポチ実記念日。






