『猫町ラプソディ』に収録しなかった書きかけの文章がひとつ、ある。それはご近所の近藤研二さんと近藤家の猫の話。本作りのクライマックスにかかっていた頃、近藤家のモイの病気が発覚した。それでなんとなく僕はそのエッセイを書き終えることができずに、まだ僕のパソコンのなかにある。近藤家との交流は間違いなく自分の猫歴史のなかで大きな意味を持つものだから、いつかきちんと文章にしたい。
モイの悪性リンパ腫が分かったのは真冬だった。それから春になって桜が咲いて、もう初夏、雨の季節も始まろうとしている。1月にはどんな春が来るのか、夏に至っては想像もできないで呆然としていたわれわれ猫町ファミリーだったけど、数日前にモイの腎臓にあった腫瘍がなくなる“部分寛解”という吉報が舞い込んだ。近藤家の頑張りはすごい。そう伝えると「モイがすごいんだよー」と返ってくるが、モイはもちろんだけど近藤家の献身と執念は並大抵のものではない。昨日は部分寛解お祝いでケーキをみんなで食べた。僕らは1月から酒断ち願掛けというのをやっていて、モイが寛解したときに「寛解、カンパイ!」とやるのが目標なのだけど、昨日はコーヒーカップで小さく乾杯をした。もっとよくなる。きっと幸せの風が吹くさ。
そして、チミママのことである。2週間ぶりに姿をあらわしてからはだいたい毎日ご飯を食べにきてくれて嬉しいのだけど、今年も春が過ぎてついに蚊の季節がやってきた。さっそくチミママは耳の裏側を刺されたみたいで、赤く痛々しく腫れている。去年はご飯に抗生物質の薬を混ぜて食べさせて、ちょうど夏も終わるころだったので炎症も完治したのだけど、夏の始まりの段階でこれだけひどい状態になっていては先が思いやられる。チミママは人馴れしていない地域猫。窓越しのやりとりでは逃げないけれど、決して近寄らせてはくれない(「山田さんがチミママを飼うということはできないのですか?」とたまに訊かれるけど、そういう縮まらない距離感があるのです、チミママとは)。
昨日はご飯を食べ終えて向かいの家の屋根の上にいた毛づくろいしているチミママにそっと近づいて、ちゅーる(猫が大好きな液体状のお菓子)をかざして「耳の後ろに薬を塗らしてくれませんか、ママン」とコミュニケーションを図るも失敗(ちょっと興味を示して向こうから一瞬近づいてきたのは進歩か)、それを2階から眺めていたポチ実が「は!ちゅーる!アタシにちょうだい」と鳴くので、僕が脚立に乗って庭からベランダの彼女に給餌する、というなんだか変な夕暮れ時のシーンがあった。蚊なんていなくなったらいいのにね。今年も紫陽花の庭の蚊対策でいろいろ奔走中。夏がやってきて、猫町の猫騒動は切れ間なく続くのです。
Posted by monolog at 11:19│
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