先週末、日曜日の話。この日は昼と夜のダブルヘッダー。自分で組んだスケジュールだったけど、なかなかタイミング的にタフなシチュエーション。鎌倉molnの名物企画「貸切り図書館」ということで紹介する本は本棚からひとつかみ持ってきたのだけど、演奏曲目が未定のまま。夕方サローネからmolnに入って歌う曲を決めるという慌ただしさでしたが、miyazono spoonの展示も賑やかで、勝手知ったる空間ではホッとリラックスできるのが良い。急遽オープニングアクトを務めてくれることになった草とten shoesのリハーサルを聴きながら、彼女たちに提供した「冬の日の幻」をセルフカバーしてみようと思ってササッと歌詞を聴き取る。僕は開演前にカフェ・ヴィヴモン・ディモンシュへ挨拶へ。なんと今年初めてのディモンシュだった。それだけ慌ただしいのだな。
会場は盛況。昼のJAMJAMJAMから、あるいは前日のギャラリー自由が丘と続けて来てくださった方も多かっただろう。草とten shoesを控室で聴いたが去年12月の初ステージから曲目も増え、なんだかいっぱしのバンドみたいになっていて、そのポジティブな表現精神に感心する。きっと永井宏さんの意思を継いでいるのだろうな。僕がべた褒めするのもうそ臭いので言葉多くは語らなかったけども草とten shoes、たいしたもんだな、と思う。僕のステージ、GOMES THE HITMANの「思うことはいつも」で始めた。新しい季節の境目に歌いたくなる曲、9月のバンド演奏ではうまく歌えなくて心残りだった歌。
2曲目に「冬の日の幻」を。「夏の日の幻」という曲の姉妹曲を書いてみようと3分でちゃちゃっと書いた曲だけど、そういう曲は迷いがなくてすーっと真っ直ぐ伸びていく歌になる。歌うのがとてもむずかしい歌だと思った。草tenは頑張って演奏している。miyazono spoonのために「スプーン」が歌の中に登場する「歓びの歌」を歌った。「コーヒーカップとクロスワードパズルで眠らない街/甘い吐息と沈んでゆく言葉をかき混ぜたスプーン」秋の夜長の歌だ。「貸切り図書館」は自分の好きな本を紹介しながら歌を歌うイベント、まず最初に3冊紹介する。
コーヒーテーブルブックとは辞書で調べると「(コーヒーテーブルに置いてあるような)大型の立派な本、画集や写真集など」とあるが、僕が選んだのは日本の狭小なリビングにも似合うような、ささやかな写真集。『Metal Cats』は海外のヘビメタ兄ちゃんたちと愛猫の写真集。タトゥーだらけで長髪強面の男たちと猫のアンバランスな2ショットが微笑ましい。飼い主と猫の顔が似てるのも面白い。『Bad Cat』は悪い顔をした猫ばかり集めたポストカードサイズのペーパーバック。かわいい猫が一匹もいないのが何まわりかして、かわいい。もう一冊は音楽好きに間違いなくアピールする『Sleeveface』。これはいわゆるレコードジャケットを使った顔ハメ写真集で、僕もたまにインスタグラムで「#sleeveface」というハッシュタグをつけて投稿するレコードコレクターの嗜みです。
秋の歌を集めて「アップダイク追記」「glenville」、そして今最も香る花、金木犀が登場するサトミツ&ザ・トイレッツのために書いた「答えはトイレのなか」を演奏。この日は残暑的な晴れた日でしたが夜になるとやっぱり秋の風が吹いていました。本紹介コーナー2は「自叙伝」をテーマにセレクト。最近読んだ本のなかで飛び抜けて面白かった向井秀徳著「三栖一明」は同世代同郷の音楽家が青春を綴った本。僕自身が書いた『猫と五つ目の季節』も猫という媒体を通して書いた半生記と言えるでしょう。そして今読み進めているThe Smithsのギタリストによる『ジョニー・マー自伝』の3冊を紹介しました。そのままThe Smithsの「ASKをカバー」、ここからカバー曲コーナー。先月バリ島を旅行したときにずっと僕の頭のなかで鳴っていた細野晴臣「恋は桃色」を初めて歌ってみた。前日に歌った大瀧詠一さんの「青空のように」も「恋は桃色」も松本隆作詞じゃなく本人の言葉なのが興味深い。風街から通りいくつか離れた街の歌。fishing with john五十嵐くんが昔やっていたバンド各駅停車の曲「君と犬だけ連れていく」をサプライズで披露。素振りも見せずぶっつけだったのでキーが少し低かったかな。
本紹介パート3は片桐はいりさんの『もぎりよ 今夜も有難う』。映画好きなはいりさんによる美しくウィットに富んだ言葉で綴る映画エッセイです。今年の夏にはいりさんとご飯を食べているときに僕が「はいりさんの一番好きな映画は何ですか?」と聞いたときの、はいりさんの苦みばしったような、本当に心苦しいような困った顔を忘れない。「そ、それは難しい質問ね…」と言って結局はいりさんは答えることができなくて、僕は「ああ、はいりさんは本当に映画というものが好きなんだなあ」と感動すらおぼえた。一番好きなものがたくさんあるっていう感覚がいいな、と思ったのです。そこから「my favorite things」へと繋がり、「小さな巣をつくるように暮らすこと」「きみは三毛の子」と好きな人、好きなものが書かせてくれた曲で締めくくり。最後に「calendar song」で楽しい掛け合いをして長い一日が終了。いっぱいしゃべって、いっぱい歌いました。ご清聴ありがとうございました。
「貸切り図書館」は本当に楽しいイベント。2年ぶりでしたが、またすぐにやりたいなと思いました。ご来場ありがとうございました。。五十嵐くん、綾ちゃん、草tenのみんな、宮薗さんにも心から感謝を。