後悔するかも、と思ったきっかけは「America's Sweetheart」と評されるほどに右も左もなくアメリカ全国民から愛される存在になったテイラーが初めての政治的発言をしてトランプの共和党不支持を表明したことでした。出自であるカントリー音楽というカテゴリーからはみ出して飛躍した彼女の、20代最後のワールドツアーになるだろうし、もしかしたら予想外の音楽的変容がこの後に続くかもしれない、と思うと今回の大掛かりなステージはやっぱり観逃せない!ということになったのです。

ライブ当日(初日に行きました)僕は朝から出かける用事があって、そこは東京ドームから一駅の街でした。SNSで呟かれる「テイラー物販の行列、ヤバイ」という、その現場を僕は見たくなった。最近の大きなコンサートの例にもれず、開演にあわせて出かけていってもグッズを買うことは無理だろうなと思っていたのですが、天気がとても良い日で寒くもないし、東京ドームシティのジェットコースターや観覧車からはとても楽しげな声が聞こえる。なんだかワクワクしながら「最後尾」と掲げられたところに並ぶと、来日公演は東京2公演だけなので当然日本中からテイラーファンが駆けつけているわけです。親子連れ、カップル(女性主導)、スーツケースを引きずる人、中国や韓国、アジアから来た人たちもそれぞれの言語でおしゃべりしている。
列に並ぶ僕のすぐ前には広島から来たと思われる女の子二人、そのよく通る声の方言と話が興味深く「ウチ、こないだ元彼と会うたんじゃけど、わやくちゃにケンカしてもーてー」「そんな言わんと、より戻したらええがー」とか、職場の噂話とか、そういうどうでもいいことを語られる感じがすごくテイラー・スウィフト的というか、とても新鮮で、気づいたら1時間が経っていて僕はグッズ売り場にたどり着いたのでした。欲しいものがあったかというと、そういうわけでもなくて(今テイラーはちょっとタフでハードなヤンキーモードなのですよね)、なんとか着やすそうなTシャツと、これが一番面白いなと思ったヘビ柄みたいなギラギラしたサングラスを購入。車の運転のときにかけたいと思います。

一旦帰宅して少し休んで、再び東京ドームへ。日もとっぷり暮れて光溢れる街。会場全体を見渡せる席で、今回も連動式のLEDリストバンドを腕にはめて開演を待つ。で、内容はもう完璧なエンターテイメントで、一瞬たりとも退屈することなく、ダイナミックなダンスも、ステージセットも映像も、新旧含めたセットリストやアレンジも圧巻なものでした。少しでも行くのを躊躇したことを謝りたいくらい。EDM最先端なトラックでも、ギターの弾き語りでも、すべてがテイラー・スウィフトらしくてさすがだなと思いました。今年観たコンサートで一番かな。「テイラー・スウィフト好きだなんて意外だ」とよく言われるけれど、テイラー・スウィフトを好きじゃない人がいることのほうが僕には不思議なのですよ。「Taylor Has Nine Cats' Lives ―僕らが彼女に夢中な理由」という書き下ろしエッセイを寄稿した本はこれ。その日以来、去年出た『Reputation』というアルバムを遅ればせながらずっと聴いています。とても良いです。
以上、誰に言うでもない、なんということでもない、テイラー・スウィフトの話でした。

