どんな雪景色が目前に広がるのかと目を覚ましたら、拍子抜けの粉砂糖ほどの雪。下北沢lete2日目は年に一度、3回目となる男性限定公演でした。セットリストをがらっと変更。家を出る直前までああでもないこうでもないと試行錯誤。もともとは「カフェライブ」的な公演に男性のお客さんが来ない(来づらい)傾向を慮って始めた企画だったのだけど、最近少し思うところがあって下北沢leteでの男性限定ライブは今年で一旦最後にすることにしました。なので、とにかく楽しい夜になることだけを願いながら粉雪舞うなかを下北沢へ向かいました
リハを済ませて開演直前にleteに戻ると誰もいないかのような静けさに不安になりましたが当日券含めてたくさんのお客さんが空間を埋めて、そこに静かに流れる音楽に聞き入っている様子でした。この日はゴービトウィーンズの片翼、Grant Mclennanのソロ作『In Your Bright Ray』でしたが、「このレコード、山田さん的なエッセンスが詰まりまくってますねえ」と店主町野さん。毎回趣向を凝らして選盤する開場時BGMへの反応が嬉しかったです。
前日と同じく新曲「new sensation」でスタート。個人的なテーマは“男らしい曲”ということで、「三日月のフープ」「サテライト」と続きます。雪で混乱する予想込みで忍ばせていた「北風オーケストラ」でしたが、これも浮かれた彼が彼女の心を揺さぶる言葉を編む“男らしい”歌かな。リクエストに応えた「長距離ランナー」。久しぶりに歌いましたが、なるほどこれも男子目線でグッとくる曲なのかもしれない。早稲田、広末というキーワードで歌い始めた「週末の太陽」、女性客のみなさんがサーっと引いていったのと反対に、前のめりに話に乗ってくる客席。男子はみな広末涼子が好きだということが証明された。
その広末涼子と昨年共演した(記事)キンモクセイ伊藤俊吾(イトシュン)がサプライズでゲスト出演。「山田さんの男祭り、興味あるんで見にいっていいですか?」と遊びにきたので歌ってもらうことに。イトシュンとはサトミツ&ザ・トイレッツでのバンド仲間であり、レーベルの後輩でもあります。僕が一時期ラップに凝っていた時期に演奏したレア曲へのリクエストがあったので、その後リリックを塗り替えてサトミツ&ザ・トイレッツ「今夜はCLEAN IT!」に昇華(消化?)した「STEP BY STEP」という曲を二人で。続いてイトシュンによる漏洩禁止の衝撃告白を受けて僕がイトシュンに捧げるために選んだチューリップ「虹とスニーカーの頃」を熱唱。ライブは最高潮に。
男と女っていつの時も難しいもの。20世紀に書いた、僕にとって初のメッセージソング「男なら女なら」にもリクエストをもらった。かの阿久悠先生は「男は誰でも不幸なサムライ/花園で眠れぬこともあるんだよ」と綴った。「悲しみのかけら」という未発表曲は怒りよりも悲しみに満たされることが多い自分の感情と向き合った曲。リクエストに応えて「ただの旅人」を久しぶりに歌ったけれど、少し感覚が変わった。言い換えると、自分に馴染んできた。
未発表の新曲「houston」と「lucky star」はこの日もとても評判がよくて嬉しかった。「小さなハートブレイク」も歌いこむほどに感情移入していく歌。予定外に「愛すべき日々」を差し込んだのはleteの氷のような窓が人いきれに曇っていたのが見えたから。「セラヴィとレリビー」で本編終了。高橋徹也さんもイトシュン同様男性限定ライブに関心があり観にきていたのだけど、ステージへ招くかどうかは当日の雰囲気や流れに任せることにしていた。アンコールでの熱気はタカテツさんを呼び込むのにじゅうぶんだった。ばつが悪そうにステージにやってきた彼だったが、この日の一体感に調子が乗り、行き当たりばったりで選曲された「ドライブ」を共演。そして「幸せの風が吹くさ」では場内の手拍子も加わった。
20周年となった初メジャー作から「tsubomi」を歌っても終演の雰囲気にはならず、聞いたことのないような大きな拍手の音とコールアンドレスポンスを伴う「calendar song」で大団円。最高の2時間半でした。遠くから近くから駆けつけてくれたお客さん、20年来のファンが「父親になりました」と報告してくれたり、「山田さんにバレンタインプレゼントです」とコーヒーをくれる輩もいたりして。イトシュン、タカテツさん、そしてlete町野さんにも心から感謝を。
まったく趣きの違う2日間、音楽家冥利につきる2月の下北沢lete公演でした。